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 * わたしの上司 *


 アルビオレックス侍従長官は見目麗しい方で、所作もお言葉も洗練されていて美しく、女の方はもちろん、男の方であっても足を止めるほど凛とした空気をお持ちです。
 そして非常にお忙しい方でもあります。
 女王陛下のご予定を作られることはもちろん、城内のあらゆる予定を把握していらっしゃいますし、それらの事がうまく運ぶよう、陰から様々なことに気を配っておられます。
 例えば、魔女キルケ様とユニヴェール卿がうっかり顔を合わせることがないように。(キルケ様はユニヴェール卿のことが大大大嫌いなのだそうです)
 気位の高いオンズの面々と、オンズの高飛車さが気に喰わない議会の面々が近い部屋に通されないように。(侍従長のお言葉そっくりそのまま)
 紛糾しそうな会議の時には寒色でまとめられたお部屋へ、長引きそうな時にはあらかじめお食事の手配を、お祝い事があった方の来訪時にはお花のご用意を……それぞれのお客様の利害関係をすべて握っておられるそうで、次官のダーナ様の強力なお支えもあり、この方々がおられるからこそ、このお城は女王陛下の居城としての尊厳を保てるのであります。

 しかし、最近侍従長のご機嫌が悪いことが多いのが我々侍従官の悩みです。
 侍従長の不機嫌のもとは、女王陛下によって地下の檻から放たれたという狼です。


「悪りぃ、アルビオ。壺割った」
 大きな体躯の男は、侍従長官室にノックもせず入ってきては、何かを壊したことを報告していきます。
 机から視線を上げる侍従長の眼は霜が降りていて大変怖いです。
「どこの部屋の」
「覚えてねェ」
「……フェンリル」
 侍従長がどれだけ怖い声を出しても、このおっさん狼は気にしません。
「たぶん酔ってた」
「このバカ犬!」
「犬じゃありませーん」
 いい歳をしたデカい大人が、華美な外套を肩に引っかけたまま語尾を伸ばしていて、反省のかけらもありません。
「お前が目覚めてから、城の備品を幾つ破壊したか読み上げてあげましょうか。この前ちょうどお前専用の書類を作ったから」
「この前と違ってちゃんと申告したんだから許せよ、なぁ」
 この狼は我々の侍従長に対してとても馴れ馴れしいです。
「大剣振り回して彫像を壊したあげく報告もしないで運河に捨てたやつ、あれであの部屋の担当の子がどれだけ焦って城中彫像を探し回ったと思ってるんですか」
「像が動くなんざ珍しくないだろ」
「あれは動かないやつだったのです」
「……それはそれはまことに申し訳ございません」
 侍従長、もうコイツ絨毯で巻いて運河に沈めましょう。
「お前は本当に昔からガサツで……今度城の入り口に記入用紙を用意しておいてあげますから、何か壊したらそこに書いておきなさい。そうすればお前はわざわざここに来なくて済むし、私も時間を割かれなくて済むから」
 侍従長の目はすでに机に戻されていて、流れる筆跡を残して羽ペンが動いています。
「えぇ〜。アルビオレックス様の綺麗な顔を見に来るために壊してるのになぁ」
「──リア、それをつまみ出しなさい。そしてどこの部屋の壺が割られたのか、みんなで調査しなさい」
「承知しました!」
「冗談だってば」


 というわけで、あの狼が起こされてからというもの、我々の仕事は増えて侍従長のご機嫌は斜め気味ですが、それでも侍従長は我々のためによくお菓子の差し入れをしてくださいますし、我々を困らせる輩には厳しく注意をしてくださいます。
 有能で女王陛下からの信頼も厚く、優雅で部下にはやや甘い、あの方の下で働くことは城の皆の憧れです。
 しかし近衛隊の副隊長も務めておられるので、粗暴で野蛮なベルセルクやウールヴヘジンたちに手を焼いているのではないかと、差し入れのお菓子で休憩を取りながら、我々は日々、侍従長の身を案じるのであります。


侍従官:リア・ファル


THE END








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