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雪丸京介の華麗なる朝 *
──早朝の魔導協会本部都市。
「シムルグ〜、まだ走るの〜?」
まだ人もまばらな公園内をジャージ姿で走る優男がひとり。
「あと5周くらいすればいいんじゃねーの?」
背中にメガホンをぶら下げ、小さい自転車で男を追い立てる少年がひとり。
「冗談でしょ! 君の設定した1周がどれだけ距離あると思ってるの。5周もしてたら始業時間に間に合わないよね!?」
「どうせ机の上の仕事なんかロクにしてないんだろ」
「霜夜が予算コード変わったの教えてくれなかったから、差し戻された報告書が山のようにあるんだよ!」
サングラスをかけテーピングをし何やら本格的な出で立ちで走っている人間とすれ違い、せわしなく足を動かす小型犬を連れて散歩している夫婦を追い越す。
「だってお前全然息上がってねぇんだもん。少しくらい疲れなきゃランニングっぽくねぇじゃん」
少年が少々不満げに言って自転車を男に並べると、
「魔術師の基本は体力だからね。これくらいでへばるわけないさ」
ニヤリとバカにした笑みが降ってくる。
少年は全く同じ笑顔を返してやった。
「お前は放っとくと自堕落な生活になるメタボ予備軍だからしっかり監督しろって」
「誰が」
「お前の上司」
「…………」
あからさまにげんなり顔になる男。
エサをついばむ鳩を避け、まだ水の出ていない噴水を横目に見る。
「ちなみに、夜は別メニューしっかり用意したから」
「毎日筋トレとストレッチやってるのに!?」
「あんなのじゃ足りない!」
「なんで!」
「だってお前ピンピンしてるじゃんか」
「はぁ!?」
──余計な行動や発言をされると迷惑だから、始業前にできるだけ疲れさせておくように。
そんな彼の上司の言葉にノッたのは、ただ面白そうだったからに他ならない。
「魔術師の道は甘くないんだ! ホラ、早く走れ!」
「なんで君に魔術師を語られなきゃならないのさ!」
THE END
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