ウチの上司
50003ニアピン賞 姉姿辰己様からのお題 「レベッカとパルティータの不毛な口論」
「毎回毎回後始末をするこちらの身にもなってほしいものです。余計な洗濯や掃除や客相手が増える増える……」
ティーカップに注がれた紅茶にミルクを混ぜながら、黒髪の女がつぶやいた。
「ちょっとまっとーじゃないやり方で解決しよーとするからって、睨みで威圧してくるのって卑怯だと思うわよね? 脅しってのはよくないわよ。サシでやりあうとか話し合いとかならともかく」
小さなショコラケーキにグサッとフォークを突き刺し、ワイン色ローブの女が遠くを見据える。
「人にあーだこーだ言うわりに自分だってすぐ手ェ出すのに。私に仕事まわすと面倒なことになると思ってるらしくて全部自分抱え込もうとするし、でも結局私が出て行かなきゃいけなくなるのよ」
「私の主はあちこちで女の人たぶらかしてきて困ります。捨てられたと思った人が扉の前で延々恨み言並べてきた日もあるんですから」
パルティータがため息をつくと、魔導師然とした女が首を傾げた。
「捨てられたんじゃないわけ?」
灰色メイドは平然と応える。
「拾われてない人が捨てられるわけないじゃないですか」
「……それはつまり、遊びってこと?」
「主は戦場にしろ処刑場にしろ恋にしろ、本気になることはありません」
「ふ〜ん。へ〜え」
「……何か?」
メイドが主そっくりに片眉を上げた。
すると意地の悪い笑顔を浮かべた魔女がひじをついてフッと息をつく。
「いつだってシャロンは黙って一投入魂一刀両断よ」
ティーカップのふちに口をつけ、
「それこそ剣士の醍醐味よね」
うんうんとうなづく。
けれど化け物の手下は動じることなく薄い笑み。
「ユニヴェール様にはそのように全力を出すべきお相手がいないんです。ですから私もあの方がどこまでの力をお持ちなのかまだ分かりません。獅子は兎を倒すにも全力を尽くすって言いますけど、それって単なる『無駄』ですものねぇ」
「それはまた面白くない世界ねぇ。シャロンとフェンネルと私と──まぁハイネス先輩もくっつけておけば、吸血鬼だろうが狼男だろうが蹴散らしてひれ伏させる自信はあるんだけど」
事も無げにそう言い、ケーキを口に運ぶレベッカ=ジェラルディ。
能面の顔に笑顔をはりつけ、パルティータは指を一本立てる。
「出演料と出張費が出るんでしたら、嬢の世界に出向いてもいいですよ」
「ダメダメ。そーゆー規格外なことするとシャロンが眉間にシワを寄せるから。自分の存在そのものが規格外なのに、他人が規格外やるとサングラスの奥で密かに難しい顔するの。普段ボケ−っとしてるのが一変! 本人は気付かれていないと思ってるんだろうけど」
「……ユニヴェール様も面倒臭いだのここから離れるわけにはいかないだの、ごねるような気がします……。仕事仕事仕事人間なうえに、見かけ若いにもかかわらず中身は老成しまくった大年寄りで。まったくもって詐欺ですよね」
一拍置いてふたりの目があった。
『……はぁ』
意識されることなく重なった嘆息。
それを聞き、横に座っていた若い優男が軽やかな笑い声を上げた。
「大変なんだねぇ」
『えぇまったく』
「君たちの上司が」
『…………』
一呼吸おいて、魔女が銀の錫杖を構えた。
「アンタ、いい度胸してるのね」
「えぇ、ホントに」
メイドが銀盆を構えた。
「──はい? はい?」
細長い足を組んだまま、その男は口端をひきつらせてのけぞった。
THE END
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リクエストって、どうしてこう完全にクリアできないものなんでしょうかーっ!? 不毛な口論ですか……? コレ。
すいませんすいませんすいません。でもこういうお手軽な何でもアリってのをやってみたいと思っていたんですよ。
そして約一名勝手にゲスト参加しています……。
こんなものでもよければお納めください(笑)、姉姿様〜。 不二
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