貴女に薔薇の花束を
 
 
「……で、何か用?」
 右手にツナサンド、左手にはカフェラッテ。そして、やる気なそうに──実際そうなのだろうが──机上に分厚い教科書を広げている女。
 彼女の問いはごく普通のものだった。
 だが、扉を開けた青年はひどく怯えた顔をしていて、
「あ、あの……シャロン会長は……?」
発した声もキィがおかしい。
「会長は王都へ出張中です」
「…………」
 彼女のミもフタもない返答に、青年の顔がさらに強張った。
 彼が見ての通り、レーテル魔導学校メディシスタ生徒会の狭っ苦しい生徒会室には、眼前の女ひとりしかいない。
 その女──レベッカ=ジェラルディ風紀委員長。20代前半と思われる彼女は、長いダークブラウンの髪に学校指定のワイン色ローブ。いつも眠たげな目で何をするにも面倒臭げな顔をしているが、一度興味あるものを見つければその目は危険なまでに光輝く。
 暴走魔導師、理不尽の代名詞、死神、恐怖の大魔王……様々な愛称で親しまれている無敵の風紀委員長サマだ。
「会長に何かご用?」
 なかなか言葉を繋げない青年にしびれを切らしたか、彼女が顔を上げた。
「あ、あぁ…えっと……、昨日一年生が街で襲われたらしいんです。知らない人に囲まれて」
「襲われた?」
 彼女の瞳に素敵な流れ星が通り過ぎる。
「は、はい……。僕の一年後輩なんですけど、いきなり腕を掴まれて路地裏に引っ張っていかれて、手と足を折られたそうなんです。凄くガラの悪い奴らだったって言っていました。それに、そいつだけじゃなくて、かなりの一年生がやられているらしいんです。入院するほどまでにはなっていないんですけど、でも会長の耳にも入れておいた方がいいと思って……」
 一気に言った彼に向かって、彼女は不機嫌そうに眉を寄せてくる。
「一年とはいえ魔導師でしょう? 一般人にやられるなんて情けない」
「…………」
 一般人に魔術を使ってはいけないという規則は、おそらく彼女の中から抜けているに違いない。
 とりあえず彼は全てを棚上げして続けた。
「それが、その……。“恨むんならシャロンを恨めよ”って言ってたらしいんです、そいつら」
「…………」
 一瞬彼女の顔が呆け──、
「……会長にケンカ売ろうなんて、なかなかいい度胸した奴らね?」
 すぐに一変。凶悪な笑みがじわじわと広がってゆく。

──シャロン=ストーン。レーテル魔導学校において多大なる威力を発揮するこの名前は、彼女の上司、メディシスタ生徒会会長殿のものである。規定を無視した黒のロングスーツを身にまとい、鮮やかな紫眼をサングラスで隠した長身やくざ(?)。王都剣士団の名門ストーン家の長男で、校内でも随一の剣士。
 無論人望は厚い。硬派で寡黙、それでいてやるときゃやるのだから、ファンクラブがいくつも存在していることにだって無理はない。

「その一年生とやらはどこでやられたのかしら?」
 食べかけのツナサンドは真っ白い皿へと戻され、カフェラッテも行儀よく机に帰っている。
「…………」
 青年の理性は絶対に答えるべきではないと言っていた。だが、レベッカ風紀委員長の優しい微笑みは有無を言わせない。結局。やっぱり。彼の本能は理性に勝った。
「ミカロフ通りにある“枯れ木の山”っていうカフェの裏手らしいです」
「微妙に嫌な名前のカフェね」
 言いながらも、その瞳はきらきらと虚空の上方を見つめ、口元はほくそ笑んでいる。そして彼女はばたんっと教科書を閉じ、
「──分かったわ。会長はしばらく不在だから、私がなんとかします。大丈夫、すぐに片をつけるから。一年生には安心するように言っておいて」
断言した。



◇  ◇  ◇  ◇  ◇



「……で、何でオレがここにいるんだ?」
「護衛に決まってるでしょ。シャロン会長に敵わないからって、一年生片っ端から捕まえて骨折ってるよーな輩のところに、女ひとりで行けっていうの?」
 あっけらかんとしたレベッカの言に、男──フェンネル=バレリーは頭痛を感じてこめかみを押さえた。
「女ひとりっつっても色々種類があるだろ?」
「女ひとりにどう種類があるってのよ」
──例えば一般の男より恐い女、とかな
「……はぁ」
 言いたい言葉を我慢すると、代わりにため息がでる。
「フェンネル会長、お疲れ?」
「まぁな」
 彼らの在学している“レーテル魔導学校”は生徒数が比類なく多い。なにせこの世界で唯一の高等魔導学校なのだ(就職やら王都官試験に失敗した者の溜まり場という噂もあるが……)。
 それゆえに生徒会がふたつに分かれていた。
 シャロン=ストーン会長率いるメディシスタ、そしてこの男、フェンネル=バレリーが率いるチェンバースに。

「ともかく、その一年を痛めつけてたってぇ奴らをけちょんけちょんに伸せば、お前の気は済むわけだな?」
「他人のものに手を出したらどうなるか、思い知らせてやるのよ」
 黒いツンツンヘアに黒曜石の斜めな双眸。指定の漆黒ローブに身を包み、しかし普段なら端正でしゃっきりしているその顔は、今どことなくげんなりしている。──論文を上げた徹夜明けにもかかわらずレベッカのお遊びに拉致されたのでは、げんなりしたくもなるだろう。
“黒のヴァンパイア”。そう呼ばれている彼も、とりあえずは人間だった。



◇  ◇  ◇  ◇  ◇



「あー。ったく、なんでオレがこんなトコでコーヒーなんか飲んでなきゃいけねぇんだ」
 カフェ“枯れ木の山”。
 明らかに付け間違えている名前のこのカフェ。その窓際の席に座り、フェンネルは眠い目をこすった。
 店のカウンターには肩まである銀髪をさらりとも揺らさず、魂が抜けたような目でぼけーっとしているウェイター。他の席には、ヒマそうに新聞を読んでいるすりきれた男ひとりしかいない。
 一応綺麗に整えられているテーブルや椅子に、雰囲気よく並べられた観葉植物。見渡せば悪いかんじなどどこにもないのに、それでも流行っていないのは、この店内に流れる全くやる気のない空気のせいだろう。
 客をいれようという意志がカケラもないのだ。
「ねみぃ……」
 フェンネルがブラックコーヒー片手に外を見やれば、レベッカがなにやら数人の男と口論している。
 早速相手がかかったらしい。

“私が外であいつらを待つから、適当なところで助けにきてね”
──レベッカを助けるのか、それとも相手を助けるのか。
 聞くに十分値する問いではあったが、どうでもよいのでやめておいた。
“わーったわーった。じゃオレはカフェでコーヒー飲んでるからな”
 そう言って彼は現在この状態にあった。
 じっと見ていると、レベッカが薄笑いを浮べたまま路地裏へ引っ張られていく。
 いかにも雇われゴロツキといったかんじの男たち6人。
 いつもならば婦女子に手を出す輩はどんな理由があろうと許さないフェンネルであるが、今日はただただ男たちを哀れむばかり。
 しかし──、数分たってもレベッカは戻ってこなかった。
 一般人に魔術は使わないという規則も気にかけず、“容赦”などという言葉も持ち合わせていない彼女にとって、あんな奴らを叩きのめすのにそう時間がかかるわけはない。
「──まさか、なァ?」
 柳眉をひそめ、そう彼がつぶやいた時だった。
 絶望的な爆音が店の窓を震わせたのは。



◇  ◇  ◇  ◇  ◇



「レベッカ」
 フェンネルは眉間に指をあてる。
「どうしてこうなったのか説明しろ」
「ちょっと頭にきたのよ」
 黒コゲになって薄い煙をあげている男たち(──と路地裏)に背を向けて、レベッカが肩をすくめた。
「──あのなぁ」
 フェンネルが両手を腰にあててうめくと、対して彼女は崩れ落ちたレンガの山を背景に、ぶんぶんと拳を上下させながら喚いてくる。
「分かってる分かってる! お説教は後で聞くわ。でもコイツらなんでウチの一年生に手を出したか分かる? やっぱりシャロン会長への復讐だったのよ!」
「復讐?」
「そーなのよ!! まったく、復讐ってやつがやりたいなら、本人にやりなさいよね! どーせ会長には敵わないからって、弱い一年生の骨折るなんて人間の風上にもおけないわ! 私、卑怯な輩が一番嫌いなのよ!」
 そう怒鳴りながら、げしげしと動けない男たちを蹴りつけるのは許されるのか否か。
 フェンネルはレベッカに曖昧な笑みを与えてしゃがみこみ、ぼろ布同然になっている男のひとりを覗き込んだ。
──とりあえずまだ生きている。
「お前ら、なんでこんなバカなことをしでかしたんだ?」
 すると男は泣きながら訴えてきた。
「あ、姐さんに頼まれただけなんですぅ〜」
「姐さん?」
「はい〜」
「そりゃ誰だ?」
「えぇと……」
 ぽんぽん。
「──なんだ?」
 後ろから誰かに肩を叩かれ、フェンネルは首だけ後ろへ向けた。
 と、一本だけ立てられた人差し指が彼の頬にむぎゅっと刺さる。
「…………」
 なんだかとても悲しい気分になったフェンネルの視線の先には、さっきのカフェのウェイター。
 のっぺりした顔に無表情な笑みをのせ、無意味に背筋をしゃんっと伸ばし、彼は言った。
「長くなるようでしたらどうぞ、この店で」



◇  ◇  ◇  ◇  ◇



 一言で言えば。
 男たちが連れてきた“姐さん”とやらは、レベッカが気に入りそうな女ではなかった。
 綺麗な顔立ちをしてはいるが、俗世に慣れすぎている空気は拭えない。格のあるクラブで歌っているとの紹介だったが、裏通りにあるような酒場でも歌っているに違いない。
 薄い茶色の髪を上でまとめ、ちょっときつい目をした背の高い女。やはり長身のシャロンと並べれば、なるほど絵にはなりそうである。

「で、あんたがこいつらにアホなことをさせてた親玉ってわけね?」
 レベッカがフェンネルの横で凄んだ。
 彼女の前では、可愛らしいアイスがのったクリームソーダが泡をたてている。しかし彼女の言葉には、可愛らしさの片鱗もない。
 そしてフェンネルの真正面に座った女もまた然り。真っ赤な唇を吊り上げて嘲う。
「アホ? ……崇高なる復讐と言って欲しいわね」
「復讐ってのは本人にするものなのよ。一年のおチビ痛めつけてなーにが復讐よ。あんたがやらせてたのはただのイヤガラセ。分かるかしら?この格の違い」
「私の目的はシャロン自身を傷つけることじゃなくて、彼の名誉や信頼を傷つけることよ。だからこれでいいの」
「それが汚いって言ってんのよ」
「どこがよ! 手段は目的によって変えるものでしょ!?」
「目的そのものが汚いじゃない。 名誉と信頼を傷つける? アンタ、会長がどれだけ苦労してみんなの信頼を築いてきたと思ってるの? それを壊そうとするなんて、やっぱり最低よ」
──あいつは大して苦労してねぇと思うが……
 フェンネルは言いかけた言葉をコーヒーと一緒に飲み込んだ。
「それだけの最低なことをあの男がしたからいけないのよ!!」
 だんっと思いっきりテーブルが叩かれ、女の前に置かれたコーヒーが波打って散った。
 その飛沫を霜の降りた目で追いながら、フェンネルは静かに問う。
「一体シャロンが何をしたってんだ?」
「…………」
 女がきっと視線を強めてこちらをにらんだ。
 そして言う。
「──……捨てたのよ、私を」
『……捨てたァ?』
 レベッカと声が被ったことにある種の情けなさを抱きつつ、フェンネルは先を促した。
「捨てたって、やっぱそりゃ色事か?」
「そうよ。あの人、ウチのクラブの常連だったの。いっつも私が舞台に上がる時に聴きにきてくれて、いつまでも私の話を聞いてくれたわ」
 よほどのことがあったのか、彼女の目じりに涙が浮かぶ。
 さっきまでの威勢はどこへやら。しおらしく膝のに置いた手を握り締めている。
 しかし一方すっと横に目を向ければ、レベッカは無情にも平然と、まるで動物園のカメでも見ているかのような目つきをしていた。
 どちらかといえば彼女の話よりも、溶けていってしまうアイスの方が彼女の重要事項のよう。
 フェンネルは小さく嘆息して女に視線を戻す。
「それで?」
「映画に連れて行ってって頼めば連れて行ってくれたし、欲しいものだって買ってくれたわ。この前誕生日には薔薇の花までプレゼントしてくれたのよ!?」
「年の数だけ?」
「そうよ」
「…………」
 フェンネルはふとディープブルーな気分になって、明るい表通りへと目を移す。
 何の変哲もない毎日を歩いていく人々が、とても幸せそうに見えた。
「それなのにそれなのに!!」
 女の話は佳境に入ったようで、彼女は感極まって口の端でハンカチを噛みしめている。
「あの男は私を裏切ったのよ! 私の他に女がいたの! ──そう、アンタよ!! 私は見たの! アンタが彼と一緒に歩いているところ、アンタが彼に物を買ってもらってるところを!!」
 すごい勢いで立ち上がったその女は、やはりすごい形相でレベッカに指を突きつけた。
「あの男は私に飽きたからって、アンタみたいな女に乗り換えたのよ!!」
「…………」
 指名されたレベッカは、居眠りしていた生徒のようにぽかーんとしている。おそらく途中からロクに話を聞いていなかったのだろう。
「女として最大の屈辱よ!! 男として最低な行いよ!! これを許しておけると思うの!?」
「…………」
 ますますヒートアップしている女を前に、レベッカが救いを求めてフェンネルに顔を向けてくる。
 彼はごく優しい声音で質問してやった。
「レベッカ。お前最近シャロンとどこかへ出かけたか?」
「……えぇと、この前の休みに“呪われた一族、メルヴィスター家”ってゆー映画に連れて行ってもらったわ。シャロン会長お金持ちだし」
「お前最近あいつに何か買ってもらったか?」
「そのメルヴィスター家の呪われたグラスを生徒会室用にそろえようとしたら、それだけはやめろって言ってリンカーのグラスを買ってくれたわ」
──リ、リンカー……
 リンカーのガラス製品といえば、小さなコップセットでも30万ルビ……つまり一般人一ヶ月分くらいの給料が飛んでゆくのが当たり前。それをこの、ともすれば自分の飼っているカラスの水入れにさえしかねないような女に与えるとは。
 ちょっとした恐怖を覚えつつ、彼はさらに質問を続けた。
「誕生日に薔薇をもらったことは?」
「あるわよ。……って、フェンネル会長も知ってるでしょ?シャロン会長は何かってゆーと薔薇の花買ってくるじゃない。学校祭の後とか、出張の後とかも」
「────シャロン〜〜〜!! 許せないわッッ!!」
 甲高い怒りの声を上げ、拳を震わせる女に向かい、
「だからだなぁ!」
 いい加減面倒臭くなって、ついついフェンネルは大声を上げた。驚いて目を丸くしている女に、疲れた声音で告げる。
「映画に連れて行くのも、何かを買ってやるのも、薔薇の花を贈るのも、シャロンにしてみりゃ特別な意味なんか全然ねぇんだよ。聞き分けのねぇ赤ん坊を物であやすのと一緒でな。お前さんが勝手にあいつの恋人を気取ってただけなんだ。特に薔薇の花はアイツのクセだ。何かっつーと買ってきやがる」
「……そ、そんな…」
 女がよよと崩れた。
「遊ばれただけだったのね……」
「だーかーらー」
──子どもの面倒を見てる感覚なんだよ!
 フェンネルは怒鳴りたいのを紳士になって我慢する。
 その忍耐に挑戦するかのごとく、横からレベッカがつぶやいてきた。
「……茶番。もう飽きたわ」
 見れば彼女の前のクリームソーダは空。
「…………」
 フェンネルはすっくと立ち上がり、問答無用で彼女の襟首をつかむと、ずりずりと店の外へとひきずった。
──帰る。
 すると、
 ぽんぽん。
「…………」
 肩を叩かれて振り向いた彼の頬に、またしても立てられた人差し指が突き刺さった。
 もはやフェンネルの瞳には何色も映らない。
「お代、いただけますか?」
 軽薄な声音でウェイターがトドメを刺してくる。黒いズボンに白いシャツ。そしてさらに真っ白なエプロン。
憎らしいほどに落ち着きはらっているその優男。
「──いくらだ?」
「それでは騒ぎ料込みで30万ルビほど……」
 どげしっ
 フェンネルは問答無用でウェイターを蹴り倒した。



◇  ◇  ◇  ◇  ◇



「はっきり言って、疲れた」
 生徒会室のゴミに埋もれて、黒づくめの男が嘆息した。
 部屋の中だというのにサングラスをかけ、長い足を無造作に組んでいるその男。彼こそがここの主、シャロン=ストーン・メディシスタ会長。
「そりゃご苦労さん」
──オレの方が疲れたっつーの
 ショコラケーキを口に運びながら、フェンネルはため息をつく。
 今日はシャロンのご帰還日だったそうで、お茶に呼ばれたのだ。
 しかしシャロンが黒のスーツを着ているのと同様、フェンネルもまたカラスの濡れ羽色ローブを羽織っているわけで──会室の中は“お茶”というよりも裏組織の会議。
「子どもの相手も疲れるが、女の相手も疲れるな」
 盛大に嘆息しながらコーヒーを口へ運ぶシャロン。
 フェンネルは訝しげに彼を横目で見る。
「──女?」
「王都にいる婚約者だよ。無理矢理会わされた」
「……そうか。お前ん家は由緒正しいストーン家だもんな。婚約者のひとりやふたり、不思議じゃねぇな」
「ふたりはいないけどな」
 サングラスの奥で紫眼をひそめ、肩をすくめて自嘲気味に笑うシャロン。
 その彼がふと思いついたように、会室の奥──簡易キッチンの方へと声をかけた。
「俺の留守中に何か変わったことは?」
 そして返って来るのはさばさばとした能天気な女の声。
「別に何も〜〜」
──レベッカ
 フェンネルは姿の見えない暴走魔導師をにらみやった。どうやら彼女はシャロンに何も話していないらしい。
 フェンネルはさらにケーキを食べ続けながらも、可哀想な同僚に哀れみの眼差しを送った。
 だが当の本人は可愛らしいコーヒーカップを手にしたまま、うつらうつらと船を漕ぎ始めている。
と、
「王都の薔薇は紅が綺麗ね〜」
 花瓶いっぱいに深紅の薔薇を詰めたレベッカが足取りも軽くやってきた。
 彼女はそれをテーブルのど真ん中にセッティングして、満足げな顔をする。
 フェンネルはふと思ってきいてみた。
「お前、また懲りもせずに薔薇の花をもらったのか?」
「だってしょうがないじゃない。シャロン会長、出掛けると大抵薔薇の花を買ってくるんだから。まぁ習性みたいなもんよね」
「…………」
 フェンネルは今度こそ決定的な哀悼の意を表してシャロンにつぶやいた。
「お前、そのクセ治した方がいいぜ?」


 きっと彼のもとにはまだ届いていないに違いない。

 一昨日。あのぼったくりウェイターに30万ルビを要求された時、暴走魔導師レベッカ=ジェラルディは迷いもなくこう言い放ったのだった。

“請求書は、レーテル魔導学校メディシスタ生徒会会長・シャロン=ストーン宛でお願いね”



THE END
 
 
 
 
 
 
もちろん、長編以前の話でございまする。
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