月影の御國/飛翔さまより

 相互記念小説

borderline より
副船長とはいかなるものか

 海賊『赤の鮫』の副船長、トパーズ・ラランの朝は早い。
いうなれば、船員の誰よりも早い。自分専用の部屋から身支度しを、足音を立てずに滑るように甲板に出る。
 船先に向かうとさわやかな早朝の風が、朝の挨拶とばかりにトパーズの短く刈りそろえられた金色の髪を撫でていく。
 その風に気持ちよさそうに瞳を細めると、流れるように視線を海へとうつした。
穏かに波打つ、深い蒼色とも緑色とも思える海は上り始めた太陽の日差しをうけて、新たな一日を祝うように煌く。
「……」
 毎朝のように体全身で自然の息吹を感じると、すらりと腰にさげていた長い刀を抜く。遥か東の方にある国で作られたというその刀は、 全体的に軽く刀身も細くて頼りなく思える。が、ゆるやかな曲線を描くその刀は、見かけによらず頑丈でまっすぐに振り下ろせばこの国の剣などたやすく折ってしまう。
 斬ることも、薙ぐことも、刺し殺すこともいかようにも使えるその刀が、トパーズは心のそこから気に入っていた。
 そしていつものように、白く光に反射して輝く刀身に朝の光を存分に浴びせ、この刀を手に入れてから欠かしたことの無い稽古を一人行うのだった。

 しばらく素振りに集中していれば、甲板より下にある船内が騒がしくなっていく。
船員が起き出した事を察し、刀を鞘へと戻すととパー図は朝からがやがやと賑やかに甲板に上がってくる船員を迎える。
「あ! おはようございます」
「副船長おはよー」
「おはようございます、トパーズさん」
 十人十色とはよく言ったもので、個人個人それぞれ違うに朝の挨拶を交わす船員に、 軽く挨拶を返すと朝の掃除の指示を出すのもトパーズの仕事のひとつである。
 そういえば、この仕事は先代副船長のであったトパーズの父親が担っていた仕事だとぼんやりと思い出す。
 思い出しながらだらだらと準備にかかる船員たちをみつめ、トパーズはそのまま動き出した船員たちにつられ船を見渡す。
 薄汚れている船であるが、ライザの父・先代船長のジンより受け継いだ船だ。大切に扱わねばならないとトパーズは考えている。
海賊にとって、船とはシンボルであり命よりも大切な守るべき物である。この船は数ある海賊船の中でも小さく、薄汚れているが先代がさる大事な方から譲り受け、 その大事な方も師匠から譲り受け、その師匠も……という、誰の持ち物だったのかさえも不明なほどに歴史をもった船なのだ。
この先も受け継いでいかねばならない、とトパーズはひそかに使命感を持っているのだった。

「副船ー長ぉぉ。シュベルが掃除しませーん」
「あ! てめっ」
 一息つくことも無く、絶えることの無い船員同士の些細な諍いを解決するのも副船長の仕事だ。
ほかの船では知らないが、この『赤の鮫』では誰がなんと言おうと副船長の仕事なのだ。
 そういえば、この仕事も父が担っていたとトパーズはため息をつく。
「あの、トパーズさん…お聞きしたい事があるんですけど……」
 掃除が終わったかと思うと、キラに呼び出される。
時たまにある船員の相談役となるのもトパーズの役目だ。

 そして昼時になれば、船のコックを担う者に昼食の用意を指示、そばに控えていたシュベルに起こさなければ絶対に起きてこようとしないライザを起こしに向かわせる。
 その隙にライザがおきるまでの間自室へと戻り、漸く得たわずかな休憩を堪能し、父親が愛用していた通信機とも言える盗聴器で近くを獲物が通らないかチェックする。
「トパーズさーん、船長が起きてきましたー」
 間延びしたキラの呼び声に再び甲板へと戻り。
そこで船員と共に昼食をとり、船長であるライザに今日の動きを確認する。それによって、どこかへ仕事へと赴くこともあれば、のんびりと航海する事もあり、 ライザ意中の討伐隊のもとへわざわざ危険を冒していくこともあるのだ。
「今日は、寝る!」
 だが、このようになにもしない日というのにごくたまにあり。
そんな日はおのおのが自由に一日をすごす中、トパーズは先日奪い取った金品の数を確認したり、小船で闇市へと売ったりと日ごろできない雑用をこなしてすごすのだ。

「今日は満月ですね!!」
「酒だー!」
「歌えー踊れー」
 気がつけばいつの間には日が暮れ、あたりは闇と同化する。
その闇の中で煌々と光る月を見上げ、ドンちゃん騒ぎをする船員たちを見守りながら、一日を疲れをねぎらうように酌された酒を飲むのがトパーズの一日の終わりだ。
「今日もご苦労様だったな、トパーズ」
「そう思うなら、たまには手伝うなにしたらどうだ?」
「それは無理な相談だな」
 並んで月を見上げながら、長年の友でもあり主でもあるライザと軽口を叩き合う。 ふと思い出せば、似たような会話を父とジンがしていた記憶が浮かび上がる。
「明日はどんな日になるかなー」
「さぁな」
「楽しいよな、きっと!」
「そうだな」
 まだみぬ明日を思いながら、明日の朝も変わることなく自分は早く起きるのだろうと苦笑しながら、トパーズは注がれた酒を飲み干した。


END



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「月影の御國」の飛翔様から相互記念小説をいただきました〜vV
私の一番好きな、海洋小説「borderline」でお願いしました!
海賊討伐隊(のお姉ちゃん) vs 海賊(たち) のお話です。
周囲のキャラのわきあいあいさが気分を明るくしてくれるのですが、なんといっても苦労人オーラ全開のこの方、トパーズ副船長ですよ。
こういうキャラに弱いなぁ……私。

飛翔さん、ありがとうございました!!!

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