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No3. 正しいメイド



「パルティータ」
「はい、何か?」
 食堂のテーブルで紅茶を口にしていた吸血鬼は、ふと自分のメイドを呼んだ。
 テーブルの上には暗黒都市から送られてきた情報紙。
「“メイド協会”というのができたそうだ。正しいメイドを育てるための講習会だの、検定だの、やるんだと」
「まぁ」
 吸血鬼の真正面で銀盆を抱えているパルティータは、気のない返事。
「お前もう何年メイドをやっている? 講習会なんぞ参加者ではなくむしろ講師で、検定なんぞ一発で合格だろうな」
 口元に揶揄の笑みを浮かべて訊けば、
「もちろんです」
 特に胸をはるでもなく、脊椎反射の答えが返ってくる。
「…………」
 ユニヴェールは半眼で彼女を一瞥すると、再び紙に目を落とした。
「ちなみに、正しいメイドのあり方はこうだそうだ」

 (1)心の底から客らに尽くす「奉仕の精神」がある
 (2)メイド服などきちんとした身なり、不快を与えない髪形をしている
 (3)しっかりした尊敬語、丁寧語を話せ、注文の取り方などのマナーも身につけている

 言い置いて顔を上げると、
「……2番目はばっちりです」
 親指を上に向けて突き出してくるパルティータ。
 どこで覚えたのか。
「他は?」
「メイドは奉仕ではなく仕事です。尊敬できない輩に尊敬語を使うほど、私の言葉は乱れていません」
「…………」
「それに──」
 パルティータがやや眉を寄せ、不機嫌に顔をしかめてくる。
「それに?」
「その“正しいメイドのあり方”は間違っています。本来はこうです」

 (1)華やかな上流家庭の裏側に渦巻く黒い真実を垣間見る
 (2)悪巧みを暴く
 (3)怪我をする

「…………」
 ユニヴェールは無言で情報紙を畳んだ。
 味のしない紅茶を喉奥に流し込み、ため息をつく。
「パルティータ、それはメイドではない。家政婦だ」

(元ネタ 「家政婦は見た!」)

THE END


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