冷笑主義 web拍手
No7. 我が屋敷 ただ今執事募集中?
「ユニヴェール様、『密輸カタログショッピング』とゆー通販会社からお荷物が届きましたが」
「あぁ。ノルマンディーの悪魔公、ロベール1世の愛剣が手に入ったそうでね」
パルティータがしかめ面で食堂へ足を踏み入れても、当の本人はどこ吹く風で紅茶に口をつけている。
「パリの画材屋とフィレンツェのアカデミーからも請求書が来ていました」
「文化人を名乗るのなら、芸術家への投資を惜しんではいけない」
返事は返ってくるが、実は上の空だ。
吸血鬼はふらりとやってきたベリオール卿とのカードゲームに忙しい。
「……今月、総額でいくら請求書が届いているかご存知ですか?」
パルティータが声を尖らせても、
「さぁ」
まるで気が入っていない。
「いくらだ?」
「知りません」
「…………」
パルティータの即答に吸血鬼がようやく彼女の方を向いた。ついでに黒騎士も。
「……まぁ、家財管理はメイドの仕事ではないからな」
何かを納得して彼は再び手元のカードに目を落とす。
「っつーか、メイドも知らねェ、アンタも知らねェ、だったら誰がこの家の金まわりを知ってるんだ?」
ベリオール卿の問いはもっともだ。そして答えはひとつしかない。
『誰も』
パルティータとユニヴェールの声は重なった。
「仮にも女王陛下直近の名家に家令も執事もいねェとは……」
ベリオールが大仰にため息をつく。
「なんなら私やりましょ──」
「ダメだ」
パルティータの自己推薦は主の鋭い声で却下された。
ムッとして黙ると、代わりに横からベリオールが口を開く。
「そーいえばこの間、執事がこれでもかってくらい出てくる学園ドラマやってたぞ(※1)。ひとりくらいさらってきても分からねェんじゃねーの? セーニ嬢もお気に召すだろう美男子ぞろいでよりどりみどりだ」
『…………』
「悪魔が執事やってるアニメもやってたな(※2)。アンタだったらそーゆー奴の方が使い勝手がいいかもしれねぇ」
「……貴様なんでそんなものに詳しい」
吸血鬼が半眼で訊く。
「はぁ?」
ベリオールは一瞬怪訝そうな顔をし、そしてフッと肩をすくめてきた。
「女王陛下に付き合わされて一緒に見てた」
『…………』
想像するだにシュールな光景だ。
だが、ユニヴェール家にとって突っ込むべきはそこではなかった。
吸血鬼とパルティータの叫び声は再び重なる。
「貴様、執事といえばヒデじいだろうが!(※3)」
「貴方、執事といえばヒデじいです!」
THE END
※1:メイちゃんの執事
※2:黒執事 ※3:ちびまる子ちゃん
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