宿に帰ってシムルグがごろごろしていると、雪丸は難しい顔をして、重そうな封筒からゴソゴソ紙束を出していた。
「それ、何?」
訊くと、
「僕の出した報告書へのツッコミだってさ」
あからさまに不機嫌な声が返ってくる。 「…………」
書類をぱらぱらとめくっていた手が止まり、彼がくるりとこちらを振り返ってきた。
ずいっと紙束を突き出してくる。
「これ見てよ。この細かい無駄な修正。霜夜の字だ。あいつ、僕の報告書を協会から自分の居場所に転送させてご丁寧に添削してくださったんだよ。これ全部書き直せってさ! 嫌がらせだ!」
雪丸がヤケクソで空中に紙束を投げつけてくる。
「僕の相手は紙じゃない!」
絶叫する魔術師とニヤニヤ見守る少年の間、朱文字だらけの紙がひらひらと舞っていた。
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