金貨3枚





海沿いの港街。
大きな帆船がいくつも青い海に浮かび、白壁が並び立つ街の空にはカモメが舞う。
人々の衣をばたつかせるのは潮風で、まぶしい陽光が惜しげもなく降り注ぐ。

久々に陸へと上がった水夫たちが宿を探して通りを歩き、宿の女将たちは下っ端を連れて魚介の仕入れ。
子ども達は駄賃をもらって荷降ろしを手伝い、隊商を組んだ商人が見せ付けるように荷物を運ぶ。

ここは清々しく雑然とした街だった。
誰もかれもが赤の他人で、誰もかれもが街の仲間となる。
喧騒と活気、そして落胆と希望に溢れた街なのだ。


「結構な額になったねぇ」

「思ったよりは、な。当初の予定はこんなモンじゃなかったはずだが」

「まぁまぁ。竜の宝を盗んで命があっただけマシだろう?」

港街の片隅、緑の葉をつけた一本の若木の下で、三人の若者が昼過ぎの陽射しを浴びていた。
そろいのバンダナに、傭兵風味の剣士ベースな埃っぽい衣、おまけに三人ともが腰には剣。
どこから見ても、旅をしながら力任せの仕事を請け負う何でも屋の風情。
そして実際彼らはばっちりソレだった。

「宝? ──俺ら以外全員丸コゲにされて命からがら逃げ帰る途中でテキト−に拾った石だろ〜が。……まぁそれでも金貨三枚になったんだから、運がいいと言えばいいけどな」

ひとりが大雑把な口調で言い置き、一枚の金貨を太陽にかざしながら独りごとのようにつぶやく。

「三枚。いい数字だ」

「まったくだねぇ」

おっとりした顔つきのもうひとりも、一枚を手にして笑う。
すると、

「──ひとり一枚か」

好戦的な微笑で、一番背の高い男がその長い金髪をかきあげた。

「やるか?」

「やろうか?」

「おうよ」

三人はそれぞれに金貨を握り、その拳を重ねた。
皆の目を確認してから、金髪の男がもう何度も使われているらしい説明文を朗々と述べる。

「この金貨一枚を、一年後一番多く増やしていた奴が勝ちだ。集合場所は一年後のこの日、この時間、この木の下で。死んだらゲームオーバー。日付厳守。いいな?」

『了解』

「用意はいいか? ──開始!」





海は青く空は蒼い。
緑は鮮やかに濃く、潮風はやまない。

ここは全ての人々を隔てなく包む港街。
敗れた者、過去ある者、失った者、逃げてきた者。全ての人々を受け入れる。
そして彼らは再び世界に挑む。

別れの地であり、再会の地。
飛び疲れた者たちの(こずえ)であり、はばたいてゆく者たちの踏み台。

ひとりは海へ。
ひとりはこの街で。
そしてもうひとりは荒野へ。


今日も街は終わりなき喧騒に満ちている。







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