冷笑主義

第10話  ダンピール

後編




「アイツがクルースニクとして仕えていたのはインノケンティウス三世だが、貴族個人として仕えていたのはフランス王フィリップ二世だ」
「……イングランドのジョン王からノルマンディーやアンジュ−の土地を奪った王様ですね?」
「そういうことだ。あの頃はもうすでにアイツは死んでいたがな、だからこそ、かもしれん」
「?」
「吸血鬼ユニヴェールの働きがあったからこそ、フィリップ二世は勝利した」
「ははぁ。……でも父はなんで死──」
 言いかけて、フリードが言葉を放り出したまま口を開けた。
 玩具のような可愛らしい家々が並ぶ坂道を登りきった途端、目当てのソレが視界に飛び込んできたのだ。
「あれが現在のユニヴェールの屋敷。奥にあるのが黒い森。あの鬱蒼とした中に暗黒都市、ヴィス・スプランドゥールがある」
 説明を聞いているのかいないのか、少年は蒼の両目を開いたまま釘付けになっていた。
 特に変わったところがある屋敷でもなければ、仰天するほど広大なわけでもない。
 しかし彼はしばらく動かなかった。
「……フリード」
 この子供は聡い。だからこそ、何を考えているのか他人に見せない。見せるところと見せないところを、自在に操ることができるのだ。
 父親がとんでもない化け物吸血鬼で、自分はそれを滅ぼすことのできる力を持った聖なる始末人で、偉ぶった枢機卿からは世界のために父を滅ぼせと言われて、でも亡くなった母親はそうならないようにと望んでいた。
 右も左も前も後ろもないのだ、真っ直ぐに育つ方がおかしい。
 あるいはそれだけ塞がれたら、逆に真っ直ぐに育たざるを得なくなるのだろうか。

 ──俺なら暴れるな

 ソテールはそう思って息をつき、弟子の顔を覗き込んだ。
「……フリード?」
 ヴァチカンからわざわざフランスまでやってきたのだ。
 何か思うところがあるのだろう。
 と、無造作に屋敷の扉が開いた。
 中からホウキを持ったひとりのメイドが出てくる。
『……あ……』
 師と弟子、共にどう反応していいか分からず突っ立っていると、
「あら、お客様ですか?」
 彼女がこちらに気がついた。
 長い黒髪の、濃い灰色のメイド服を着た、やけに表情のない女。
「私はこの屋敷の小間使いですが、何かご用が? あいにく主人は出かけておりますが」
 ホウキを引きずってパタパタと歩いてくる。
「ここはユニヴェール卿のお屋敷ですか?」
 フリードが訊いた。
「そうですよ」
 メイドは愛想笑いのひとつも浮かべてこない。
「ちょっとお邪魔してもいいですか?」
「……はい?」
「シャルロ・ド・ユニヴェールは僕の父なんです。お屋敷に入れてはいただけないでしょうか」
 初対面の相手に対して、なんとも大胆な発言である。
「……えぇと」
 表情がないながらも明らかに困っていたメイドが、何故かこちらを見た。
 どうやら彼女はソテールを保護者だとみなしたようだ。
 しかし彼はお手上げだと小さく肩をすくめてみせる。
「……まぁいいか」
 随分投げやりなメイドの独り言がぽそっと聞こえ、
「主に怒られるようなこと、しないでくださいね」
 彼女は先導するようにこちらに背を向けてきた。
 ユニヴェールから傲慢と皮肉と冷笑を引けばフリードになる。そんな相似の風貌が決め手だったに違いない。
 それとも、このメイドがいい加減なのか……。
「ありがとうございます!」
 いい人ですね、とこちらを振り仰いでくるフリードに軽くうなずきつつ、ソテールは白コートの上から帯剣を確認した。
 いつの間にか森がざわざわと騒がしい。
 屋敷のまわりを何十羽ものカラスが飛んでいた。屋敷を取り巻く枯れ木にも群がっている。そして彼らはこちらを威嚇するように交代で鳴き喚く。
 ──シャムシールか。
 男は黒髪の下から屋敷を睨みつけた。
 ユニヴェールを追って魔となった三使徒のひとり、シャムシール。
 愛らしい少年の姿をしてはいるが、子どもゆえに大人の想像を超えた妖術を使うことで気味悪がられている。
 動物を操るのもそのひとつ。
 大昔、ドイツのハーメルンで起こった笛吹き男の事件は、あの少年が起こしたものだろうというのがヴァチカンでの見解だ。少年は、ネズミだけでなく人間の子どもまで操りさらって行ったのだ。しかしそれに何の意味があったのか、大人たちは今もって理解できていない。

 ……よく考えれば、主が不在とはいえ残りの三使徒であるアスカロンやフランベルジェがいて、おまけにルナールもいる可能性は高いのだ。
 ソテールは自分の左腰──剣を帯びた場所──に目を落とした。
 すると、
「剣は振り回さないでくださいね。危ないですから」
 前を向いたままのメイドに言われた。



◆  ◇  ◆



 通された広い食堂には、アスカロンもフランベルジェもいなかった。
 暖炉の前では、ひとまわり大きい法衣に着られた少年が喉の奥から唸っていたが。
「ソテール・ヴェルトール、それから少年、どうぞお座りください」
 いささか強張った声で席を勧めてきたのは、黒髪黒ずくめ、不気味なアイラインの剣士・ルナール。
 ソテールは彼と面識があった。
 実を言うと、ユニヴェールの知らないところで切り結んだこともある。
 ……フリードよりもずっと腕はいい。剣だけならユニヴェールに匹敵するといっても過言ではない。
「家の者を襲いに来たわけでもない、誘拐しに来たわけでもない、卿と戦いに来たわけでもない。では、何をしにいらしたんですか?」
 ルナールの目は敵意を含んでソテールを見ていたが、応えたのはフリード。
「父のことを聞きたくて来ました」
「……ち、父?」
 ルナールが声を裏返した。
 そしてフリードを指差す。
「じゃあもしかして君、フリード・テレストルって名前じゃありませんか?」
「そうです」
「やっぱりぃぃぃ」
 剣士は叫び両頬に手をあて、一気に言ってきた。
「もしかして81年からの養育費の請求に来たんですか!? でもそれはそっちが勝手にヴァチカンに行っちゃって渡せなかっただけなんですよ! もちろん今まで十年分のお金は大事にとってありますからすぐに渡せますけどね、あの、でも、……利子までは勘定に入れてませんよ」
「…………」
 紅茶を運んできたメイドが怪訝そうな顔をする。
「利子?」
 微妙な単語に引っかかったらしい。
 あの男に息子がいるという事実はどうでもいいのか、知っていたのか。
「いえ、利子はあんまり重要じゃないかもしれないんですが……貴女は知らないんでしたね」
「何を?」
 メイドが首を傾げる。
「この少年はユニヴェール卿のご令息です」
「そんなこと話の流れで分かるでしょ」
「それはそうですが」
 優越なのか、ルナールがフフフと不気味な笑みを作った。
「卿、意外とマメなんですよ」
 言って、剣士はフリードを見やる。
「貴方の母君のお腹に貴方がいると知るや、毎晩通ってましたもん。……ただ、あの方ほどの化け物でもダンピールは脅威なんでしょうかね、貴方が生まれてからは近付かなくなっていたみたいですが」
 彼は紅茶にレモンを入れながら、
「ホントに、他の女性なんかそっちのけでしたよ。……あぁ、あの人は貴女がメイドになる前はかなり遊び歩いてたんです、パルティータ。吸血鬼とはそういう職業だと放言していました」
 ちらりとメイドを見る。
 だが灰色の小間使いは彼を無視。銀盆を抱えて、指をくるくる回してきた。
「フリードの母君は金髪でいらっしゃいます?」
「いいえ」
「では柔らかい栗毛?」
「えぇ、そうですが」
 メイドがにっこり笑った。
「その方の肖像画ならば、ユニヴェール様の書斎にありますよ。ちょっと持ってきますね」
 彼女が見せてくれたものは、小さめではあるが丁寧に描きこまれた肖像画だった。サインの主はソテールも知らなかったが、おそらくはユニヴェールの友人なのだろう。
 あの男は芸術に明るい。
 見える場所にちゃんと飾ってありますよ、と付言してから、メイドがさらに訊いてくる。
「父のことをお聞きしたいって、あれですか? ユニヴェール様が貴方と母君を捨てたんじゃないか〜とか、そういうことですか?」
 薄い存在感をしているくせに、なかなかズケズケと物を言う女だ。
「うーん……そうなんでしょうか……」
 だがフリードは詰まる。
 彼も思うところあってここに来たのだろうが、それを言葉に表せないのだ。感情と理性とは別物。
「それでしたら、あの方はそういう人ではありませんよ」
 横から口を挟んだのはルナールだった。
 彼は芳香漂う紅茶をじっと見下ろし続ける。
「ソテール隊長もお分かりでしょうし、我々や三使徒のことを知っていただけば納得できるでしょうが、ユニヴェールという人は他人に対しての責は最後まで負う人です」
 逆にご自身に対しての興味が薄すぎて一度亡くなってしまったわけですが──そう苦笑いを浮かべて、剣士はうつむいたまま紅茶に口を付ける。
「卿は今でもヴァチカンが貴方の母君を殺したと思っています。貴方を連れて行くためにね。僕は真相を知りませんが」
「ならば何故父は僕をヴァチカンに行かせたんですか。ヴァチカンより先にここへ連れてくることだって出来たんじゃないですか。そもそも、母をここに置いておくことだって出来たはずでしょう!」
 ソテールは切れ長の目を横に流し、弟子を見た。
 きっと、一番言いたかったことなのだ、これは。
「母君をここに置かなかった理由は僕にも分かりません。彼女がそう望んだのかもしれないし、他に理由があったのかもしれない。けれど、卿が貴方を連れてこなかった理由は分かりますよ」
 ルナールが顔を上げた。一本指を立てる。
「ひとつは、卿が吸血鬼で貴方がダンピールであるという事実。吸血鬼にとってダンピールは猛毒に等しいのです」
 そしてふたつ。彼は二本目の指を立てた。
「ダンピールは決して闇の者にはなれません。なれないどころか誰も彼も貴方を殺そうとするでしょう。師匠について剣を習うことはおろか、友達と一緒に神学や天文学や史学を習うこともできない、讃美歌を合唱することもできなければ、狩りを楽しむこともできない。シャルロ・ド・ユニヴェールの子息と言っても、母君が生きていらしたあの六年間、何もなかったわけじゃないんですよ。卿はそれこそ間断なく魔を監視して近付くものは全て消していました」
「でもヴァチカンに行けば」
 メイドが抑揚なく合の手を入れた。
 ルナールが続きを引き取る。
「化け物ユニヴェールのダンピールとなれば、ローマがたまの如く大事に扱うのは必至。貴族の子ども達が受ける以上の生活が保障されたも同然、ヴァチカンの聖域内ならばどこで友と遊びに興じようが普通の魔物は近付かない。貴方の本性が表れないように最善も尽くされる。──闇がある限り、そして貴方の親であるユニヴェールが存在し続ける限り、それを滅ぼすべき切り札の貴方はヴァチカンに護られる」
 ね、と剣士が笑った。
「親なら当然の選択でしょう? 手元において一生魔物から囲って不自由に生かすか。ヴァチカンに護らせ友人や師の中で生かすか」
「……だから、僕はあまり外で遊ばせてもらえなかったんですね」
「昼間だって闊歩できる魔もいるんですよ。僕みたいに」

 ──年月が傷を癒やしても、怪我をしたことは忘れない、か。

 ソテールは紅茶に口をつけながら独りごちた。
 メイドは最初に母は金髪かと聞いた。
 フリードは違うと言ったが、ソテールはむしろそっちの方をよく知っているはずだった。もうずっと昔、あの男がまだクルースニクとして白い衣を着ていた頃の話なのだが……。
 それゆえにあの吸血鬼は、フリードの母を殺したのがヴァチカンだと思っているのだ。聖なる都は、目的のためなら手段を選ばない。
 真相はソテールだって知らない。
 なにせずっと冷たい地下で眠らされていたのだから。
 しかしあの男がそう断ずる気持ちも分かる。

 それにしても──と、ソテールは黒尽くめの剣士を眺めた。
 ルナールは怒るだろうか。
 ……自分は、フリードが魔の本性を表した時にすぐ殺せるよう共にいるのだと教えたら。



「お邪魔しました」
 唐突に、フリードが言った。
「はい?」
 メイドが目を点にする。
「紅茶、おいしかったです」
「はぁ」
「ソテール、ヴァチカンに戻りましょうか」
 蒼い目がしっかりとこちらを見る。
「もういいのか?」
「はい」
 歯切れのよい返事を聞いて、クルースニクは立ち上がった。
 まだ唸り声を上げているシャムシールをひと睨み、ルナールへと視線を移す。
「お前の飼い主にお手合わせ願いたかったな」
「卿もそう言うと思いますよ」
「近いうちに実現するさ」
 教えてやると、ルナールがわずかに顔をしかめた。彼はそのまま応えず、
「パルティータ、おふたりを丁重にお送り……」
 振り返る。
「………」
 灰色メイドの姿は食堂から消えていた。
「……メイドさんならさっき奥に行きましたよ」



 クルースニク・ソテールとダンピール・フリードが坂の下へと姿を消してからしばし、黒い森の中から一台の馬車が現れた。
 屋敷の前で停まったその中からは黒衣の貴人が降り立ち、御者をしていた若い男は貴人の先に走って屋敷の大きな扉を開けた。
 黒い帽子、襟に毛皮をあしらった黒外套。屋敷の主は扉の前に立つと、後から出てきた蒼の魔女を先に家の中へと入れる。

 そして若い男も先に入れると、男の紅はじっとパーテルの町を網膜に映し、しばらく考え込むように虚空を見つめた。
 だが男は、視線を外すとすぐさま黒衣をひるがえす。
 その長身が扉の中へと消えた後、通りは再び静寂に包まれた。



◆  ◇  ◆



「暗黒都市で何かありましたか?」
 帽子を取る時も外套を放り投げて寄越す時も、主の眉間に刻まれたシワは消えなかった。
 フランスから届いたシャルル王とアンヌ・ド・ブルターニュの結婚式の招待状も、見るなり破り捨ててしまった。
 せっかく淹れた紅茶すら飲まずに、部屋から部屋へと忙しなく出入りするユニヴェール。
 その後を追いパルティータが尋ねると、
「前も言っただろうが。お前はただ私の後についてくればいいのだよ。何も心配することはない」
 主は立ち止まり長い指を突きつけてきた。
 いつの間にか彼の顔には伊達眼鏡がのり、反対側の腕は大きな箱を抱えている。
「すべて私に任せておけ」
 パルティータは無感動にその手を払いのけた。
「貴方のご子息という方が屋敷にいらっしゃいましたよ。ヴァチカンのダンピールが」
「…………」
「ヴァチカンが仕掛けてくるなら、権力が狭間に落ちる今、インノケンティウス八世が死にそうな今でしょう。しかもデュランダルの隊長もダンピールもそろっている。……まさか滅ぼされてやるおつもりで?」
「笑止千万」
「ではご子息を滅ぼすおつもりで?」
「…………」
 主の顔から道化が消えた。
 パルティータは小さく嘆息し、吸血鬼を見上げる。
「回避する方法を教えて差し上げます」
 ニヤリと笑う。背景に凄味のある笑み。
「私をヴァチカンまで送り届けてください。それだけで、ヴァチカンは貴方にたて突く口実を失いますから」
「…………」
 主は一瞬眉をひそめ、だが何も言わずくるりと背を向けた。
 そのまま地下室へと続く階段を一歩二歩降りる。
「ユニヴェール様」
 押し殺した努声をかけると、彼は立ち止まった。
 振り返った吸血鬼は、僅かの憤りと穏かな笑みをもってパルティータの手を取り口付けてくる。
「私はね、パルティータ。自分のものをヴァチカンなんぞにくれてやるほど心広くはないんだよ」
 彼は下から彼女を見上げ、笑う。
「お前は渡さない」
 そしてスタスタと階段を降りて行った。
「…………」
 今日二度目。パルティータは目を点にして立ち尽くす。
 呆然としたまま数秒。
「……けれど!」
 弾かれたように下へ降りて行くと、到着先は“秘密の研究室”とでもいうべき場所だった。
「一体……」
 無意識に感嘆符が出てしまうほど、火が灯されたそこは凄かった。
 所狭しと蜘蛛の巣がはり、床や机にはボロボロの本が開かれたまま放ってある。不気味なラベルが貼られた瓶が威圧感さえ醸し出して立ち並び、部屋の奥にはかまどまで作られている。……大きな鍋がのっているところなんか、魔女の部屋みたいだ。
 あるいは錬金術士。
 眼鏡をかけてヤル気満々の主は、天秤に積もった埃を吹き飛ばした。そして棚のラベルを睨んで軽やかに瓶を取り出してゆく。
 そういえば、錬金術も主の趣味のひとつだ。
「ユニヴェール様」
「あぁ、そこの箱に触るなよ、危ないから」
 そこの箱……主が上から持ち込んだものだ。
「何が入ってるんですか」
「火薬」
「…………」
 二の句が継げないでいると、後ろからルナールの声がした。
「今日、ソテール・ヴェルトールも来たんですよ。暗黒都市だってもう、ヴァチカンの企みに気付いているんですよね?」
「だからユニヴェール様が呼ばれたのよ」
 おっとりしている声の主はフランベルジェだ。
「戦いに出るんなら僕も行く」
「お前はちっこいんだから留守番ー」
 いつの間にか全員いた。この地獄の方がマシな部屋に。
「卿、戦いの準備ですか?」
 ルナールの問いに、火薬の量を計り透明なガラスコップに入れていた主が顔を上げた。
 彼は牙を見せながら笑い、赤い液体を注ぎ込む。
「戦いではないよ。──戦争だ」
 そして仕上げに緑色のツブツブした鉱石を放り込む。シュワシュワと泡が弾けて緑色がどんどん小さくなっていった。
「勝つのは“私”だがな」
『向かってくる奴は皆殺し』
 三使徒が声をそろえた。
 合わせてボンッと音がした。吸血鬼の手元で白い蒸気が上がり、カビた空気に溶け消える。
 だが、パルティータがのぞき込んだガラスコップの中には、何も残っていなかった。
「ユニヴェール様、これは」
 主が渋い顔をする。
「── 失敗」
『…………』



 一方、聖なる都ではクレメンティが壊れていた。
「あーーー、くそっ、だあぁぁぁぁ〜〜〜!!」
 いつものクールなポーカーフェイスはどこへやら、頭を抱えて机の上をうめきまわっている。
 何故かシエナ・マスカーニも床に崩れ落ちていた。
「パルティータだと!? パルティータという女があの化け物の屋敷にいたのか!」
「──えーと、そうだが」
 ソテールは気圧されて小さく応える。
「おまけに茶ァ入れてもらって、仲良く歓談してきただと!?」
「歓談というわけでもないが」
「なーーーぜーーーヴァチカンへお連れしなかった! ユニヴェールも不在だったのに、お茶会までして、何故に! あぁあぁあぁ〜〜!!」
「話の筋が分からない」
 落ち着き払って言うと、シエナが鋭い声を上げてきた。
「ソテール! デュランダルの隊長ともあろう者が、パルティータ・インフィーネを知らないの!」
「知らない」
『…………』
 上司二人は押し黙り、そしてクレメンティがぱたむと机に突っ伏した。
「そうか、すべてはお前は眠っていた間のことか。しかも最重要機密だからな……。クルースニクはおろかデュランダルのほぼ全員が知らない。枢機卿でさえ知っている奴は一握り……」
「よりによってユニヴェールの屋敷とは、ねぇ」
 疲れた顔でシエナが肩を落とした。綺麗にカールされた金髪までが色褪せている。
 が、ふとクレメンティが元に戻った。
 琥珀の双眸が見る間に冴え、背筋が伸びてゆく。
 彼は小さく笑って椅子の背に身体を預けると、壮麗な絵画で埋め尽くされた天上を仰いだ。
「丁度いい口実だ。これでクルースニク全部隊、デュランダルも堂々と動かせるぞ。誰も反対しないだろう。……いや、全部隊を動かしてでも取り戻さねばなるまい」
 彼は立ち上がった。
 背後の大窓からサン・ピエトロ大聖堂の広場を見下ろす。
 そこではひとりのダンピールが懸命に剣を振っていた。
「マスカーニ枢機卿、各局の長官を集めるように。ヴァチカンはパルティータ・インフィーネを奪還すべくパーテルに向かい、ユニヴェール及び暗黒都市を討つ」



THE END



Back   Menu

Home



校正時 BGM by Within Temptation[Pale] [Memories]
Copyright(C)2004 Fuji-Kaori all rights reserved.