冷笑主義 第19話

La Roseraie(ラ・ロズレ)
─ 薔薇園 ─

後編



 そこは、パーテルからやや離れ地中海方面へと向かった、広葉樹の立ち並ぶ山の奥だった。
 殺人鬼サイド・ロバンが生まれ育った場所は。
「どうしてカーリタスのところへ行かないんだ?」
 ユニヴェールは大塔を望む城門で青毛の馬から降り、同じく白馬をニレの木に繋いでいるソテールに訊いた。
 サイド・ロバンに狙われているのなら、護衛に行った方がよいではないか。
 何なら、ヒマを持て余しているベリオールに反逆者だと吹き込んで狩らせてもいい。
「ローマで事件が起こった時、カリスも俺もローマへ警戒に出ていた。それなのに、どちらもそれらしい魔物の気配を感じなかった。それも3回。あると思うか? 俺たちふたり共が気付かないなんて」
「どちらも古いからな。探知機が壊れてるんだ、きっと。ファウストに通報して修理してもらった方がいいぞ」
 かつては馬や兵士が賑やかに行き交ったと思われる、歴史に踏み固められた道を塔へ向かって歩く。
 夏には鬱蒼と深緑が茂り城を侵食するのだろう木々より一足早く、地では雑多な草が春の到来を謳歌し、頭上を鳥の影が横切ってゆく。
 誰もいない中庭を彩る、ぽつぽつと花をつけ始めたセラスチウムの白に、群生する蒲公英(タンポポ)の黄色、陽光に反射する勿忘草(ワスレナグサ)の青。
 積まれた石は風雨に(もろ)くなり触ればぽろぽろと表面が剥がれ、陽の当らない部分には苔がこびりついている。
「ここが生家だということは、ロバンも貴族だったということか?」
「農民や商人に城暮らしは無理だな」
 人間の居住区だったと思われる主塔へ足を踏み入れれば、中はひんやりと湿った空気に閉ざされ、ぽっかり開いた窓から入る光がやけにまぶしい。
 小広間のテーブルや椅子はすでに朽ちかけ、床には藁クズが散乱している。
 壁にかけられた絵画はこの城の上階から見下ろした村々を描いてあったらしいが、表面に巣食うカビが面影すら飲み込んでいた。
「貴族だったとは思うが、この城は譲り受けたものだろう。お前が知らない程度の貴族がこれだけの城を自力で建てられるとは思えない」
 廃城めぐりは、時の止まった世界を旅するのに似ていた。
 ロバン事件はたかだか30年前の惨劇であって、ロバン家がこの城を捨てた──あるいは追われた──のもその頃だと推測できるが、生きている人間、生きている世界にとって30年がどれほど長いものか、思い知る。
 厨房はきれいに片付けられ、腐りかけた桶は大きいものから小さいものへと丁寧に重ねられ、灰の残る炉には鉄串が何本かまとめてかけられ、備え付けの食器棚の中には忘れ去られた鍋が転がっていた。
 厨房からは第2の中庭へ抜けることができ、果樹園として機能していたらしいそこには何種類もの背の低い木が植えられていた。手を伸ばせば届く位置に、リンゴの白いつぼみ。
 人がいなくとも、誰が認めずとも、生命の循環周期(サイクル)に従って世界はまわっている。
「事件の後、ロバン家はどこへ行ったんだ?」
「さぁな。落ちぶれた貴族の行く先はお前の方がよく知ってるんじゃないか?」
「失礼な」
 影と光が交互に並ぶ回廊を過ぎ、ロバン一家だろうか、くすみカビに覆われた肖像画がこちらを見つめてくるがらんどうな大広間を通り、上階へと昇れば城主の寝室とこじんまりとした礼拝堂に辿り着く。
 投石器や大石弓が残されたままの武器庫をのぞき、破れ変色したシーツが丸まっている兵舎を見渡し、屋根の破れた厩舎(きゅうしゃ)を見下ろし、ぽつんと離れた場所に造られた井戸を見る。
 時が止まっているのは、人が居た部分だけだ。それだけが、かつての栄光にしがみついている。
「そういえば、私の城はどうなっているのか……」
「戻ってないのか?」
「誰が行くかあんな場所」
 ヴァチカンに多大な影響力を有したユニヴェール家も、かつては巨大な城を持っていた。
 しかしもう300年も昔の話だ。
 それに、あんな血生臭い城に好んで住もうという者だっていないだろう。
 この城と同じように、あるいはそれ以上に、止まった時の中に埋もれているかもしれない。
「……地下がある」
「食糧庫とは違うな」
 それは、城郭の一番奥にある尖塔にあった。
 本来は見張りを置いておくための螺旋階段が上へと続く塔。だがそこには地下へ続く扉があった。
「牢か」
「牢だな」
 上の方に採光窓があるようで真っ暗ではないが、それが余計に空しさを感じさせる。
 ひとつ段を降りるたび、囲まれた石に靴音が反響する。
 互いの足音を無言で聞きながら降りた底にあったのは、人ひとり分の牢だった。
 鉄格子に鍵はかかっていない。
「光が見える」
「慈悲か?」
 ソテールとユニヴェール、ふたりで牢に入り上を仰げば、遥か頭上に白い陽が見えた。
 壁には無数の爪跡がある。
「登ろうとしたのか?」
「かもな」
 ということは、誰かがここにいたのだ。
「サイド・ロバンか?」
「ユー……リス・ロバン」
 ソテールが突然つぶやいた。
「は?」
「ここに幽閉されていた囚人は、ユーリス・ロバンという名前らしい」
 隊長殿が指差した壁には、何度も何度も爪を立て石を削り刻まれた文字。
 囚人はよく、そうやって自らの名を残したがる。
 ユニヴェールが目を細めて判読すれば、
 Iuris Robin
 確かに読み取れた。
「……誰だこれ」



◆  ◇  ◆



 パーテルはどんよりとした雲に包まれていた。
 春を楽しもうとしていた花々もガッカリである。
 流れの薬草師が多く露店を出す草市での買い物を終えたパルティータは、ユニヴェール邸へ戻る途中、ふと足を止めた。
 教会の扉が開いていたのだ。30年程前に多くの命が奪われる事件があってから、この教会の扉はあまり開かれることがない。
 神父もいないし、ミサも行われない。燭台に火は灯らず、鐘も鳴らない。
 しかし今、目を凝らせば黒で塗り潰された空間が赤く揺れていた。
 祭壇の救世主が蝋燭の炎に照らされている。
 そして──その物言わぬ神の御子を望み、こちらに背を向け、通路の真ん中に立っている先客がひとり。
「…………」
 パルティータは歩を進め教会へ足を踏み入れると、長椅子の最終列に手をかけた。
「君は、ここで何が起こったか知っているかい」
 振り返りもせず発せられた声はくぐもっていたが若く、男だと知れた。
「ロバン事件のことですか?」
「13人もの命が奪われた、憎むべき事件だ」
 男は緋色のマントを羽織っていた。しかしそれは、パルティータが見慣れている枢機卿たちの緋とは似て非なる色だ。
「そうですね」
「だが事件を起こしたサイド・ロバンがどうなったか、知る者は少ない」
「知らなくても想像はつきます」
「君たちの想像どおりではないんだよ。世界は、そんなに整ったものじゃあない」
 人々が崇め祈る緋色が枢機卿のそれだとすれば、男の緋色は人々が(さげす)(おのの)く色。
 死刑執行人がまとう色だった。
「サイド・ロバンは貴族の息子だった。たかだ13人の市民と貴族が平等な天秤にのると思うかい?」
 彼が肩越しにわずか顔を向けてきたことで、彼の声が不透明な理由が分かる。
 仮面をつけているのだ。顔全面を覆う仮面を。
「彼の父は裁判官たちと極秘裏に取引をした」
 死刑執行人は悪を裁く領主の代理人だ。緋色は権威に裏付けられた正義の証。
 しかし人を殺して金をもらうその職業は、人々から忌み嫌われている。
「息子が死刑囚となれば家名が汚れるうえに、地位剥奪もありうるからね」
 男の告発は誰に向けられているのか、ひどく穏やかだった。
「サイドの父は、彼を自分たちの責任において監禁することを誓い、多額の口止め料、恩赦料を支払った。ゆえにサイド・ロバンに公の刑は科されず、その名が世間に公表されることもなくなった」
 この男は誰なのか。
 何のためにこんな話をしているのか。
「でも私たちは彼の名前を知っています」
 パルティータは男の背を見据えて言った。
「それは──」
 男がゆっくりと身体を反転させてくる。



◆  ◇  ◆



「ユーリス・ロバン、この坊ちゃんだな」
 ソテールとユニヴェールは大広間に戻り、肖像画を確かめていた。
「若いな」
 輝きの失われた額縁の中にいたのは、利発そうな顔つきをした青年だった。
 かけられていた場所が良かったのか傷みも他ほどひどくはなく、当時の彼を知るには充分な色が残っている。
 自由奔放な炭色の髪に、瞳は澄んだ緑玉(エメラルド)
 紺碧のチュニックを着てこちらに笑みを向けているそのどこにも、地下牢に幽閉されるような影はない。
「絵の順番からするとサイド・ロバンの弟だな」
「兄弟して牢獄に繋がれたのか」
「どうして」
「さぁ、知らん」
 ユニヴェールが無責任に答えを放り投げた時、
「アンタ方こんなところで何してるの?」
 大広間の入り口からの声が聞こえた。
「馬でこの城へ上がっていくのを見かけたからねぇ。近頃じゃお客さんなんて珍しくて」
「勝手に入って申し訳ありません!」
 こういう時の隊長殿は動きが素早い。
 風のように走って行ったかと思えばすでに老婦の前で聖剣を見せて敬礼をしている。
「ヴァチカンの聖騎士、ソテール・ヴェルトールと申します」
「──その部下のカリス・ファリダットです」
 ユニヴェールは会釈をしながら、過去のユーリス・ロバンを後にした。
 睨んできたソテールの目が実在の偽名を使うなと怒っているが、アイツに面倒をかけてやるのも趣味のうちだ。
「我々はロバン一家のことについて調査していたんです。失礼ですが、貴女は?」
 小言をもらう前に話を先に進める。
「そうですか。まだ覚えている人がいたんですねぇ」
 年齢のせいで肌は乾き背は小さいが、灰色の長い髪をきっちりとまとめた気骨のありそうな女性だ。
「私はここで下働きをしていましてねぇ」
 ソテールを押しのけ大広間に踏み込み、懐かしそうに見回す。
「あの事があるまでは活気のある素敵なご家族でしたよ。ご自慢の令息がふたりもいらっしゃったから、それはもう毎日戦争のように騒がしくて」
「サイド・ロバンとユーリス・ロバン」
 無意識にソテールが漏らすと、老婦が大きくうなずく。
「兄のサイド坊ちゃまは狩りや剣術がお得意で、弟のユーリス坊ちゃまは学問がお得意でした」
「それがパーテルの事件で崩れた?」
 ユニヴェールは単刀直入が得意だ。
「あの事件でサイド坊ちゃまは地下牢に監禁されることになり──」
「死刑ではなかったのですか?」
 ユニヴェールも声を上げようとしたが、ソテールの方が早かった。
「いいえ。坊ちゃまは、」
 老婦が中庭へ出て行き、敷地奥の尖塔を指差した。
「あの塔の地下にある牢に一生入ることになったそうです」
 青空を背負い誇らしげな塔は、中に入れられた人間の叫びなど全く意に介さないように見えた。人間の建造物が人間を裏切った瞬間だ。
「でもねぇ」
 老婦の顔が歪んだ。その場にしゃがみこむ。
「サイド坊ちゃまは地下牢で殺されたんですよ。ユーリス坊ちゃまに」
「…………」
 ユニヴェールがソテールの顔をうかがうと、隊長殿も視線だけをこちらに寄越していた。
「ユーリス坊ちゃまはお父上までも殺そうとなさって、取り押さえられる時に重傷を負われたそうです。そしてそのまま、サイド坊ちゃまが入っておられた地下牢にユーリス坊ちゃまが入れられることになったのです」

 炭色の髪の青年が地下牢の鍵を開けて兄の傍らに立つ。
 顔を上げた兄の視界が捉えたのは、振り下ろされた鈍色の刃。
 息絶えた兄を冷ややかに見下ろし、返り血を浴びた姿のまま階段を上がり、庭を突っ切り、家族の夕食が並ぶ小広間へと入る。
 召使いたちが悲鳴を上げ、皿の割れる音がする。
 椅子に背を預け家宰に葡萄酒の指示をしていた父親がこちらを見るや何かを叫んで腰を浮かし、グラスを倒した。
 後退しながら腕を振り回すその男目指して助走をつけ、刃を突き立てる。
 ──だが、その刃は一歩届かず、次瞬焼け付くような痛みを腹に感じて、何故身体が止まったのかを知る。
 衛兵の槍に貫かれていた。
 手から剣が落ち、槍の穂先から己の血が滴る。

「その時の怪我がもとでユーリス坊ちゃまも程なくして亡くなりました。私たちはお優しかったユーリス坊ちゃまが何故そのようなことをなさったのか全く分からなかったんですよ。その分、驚きと悲しみは深く、城を辞める者も多く出ました」
 言って、大きく息をつく。
 そして次に彼女が出した声も、うららかな春の陽気に似合わず、低くひそめられていた。
「でもその後、ご当主はご病気で亡くなる前、司祭様にすべてを告白したのです」
 為政者は、そうやって無垢の魂になったつもりで天の門を願うのだろう。
「サイド坊ちゃまの裁判の時、裁判官と官吏にお金を積んで刑を逃れたこと。サイド坊ちゃまとお父上を襲った時、ユーリス坊ちゃまは死刑執行人の衣装をまとっていらっしゃったこと。そして、瀕死の牢の中で“僕は僕の良心に従った”とおしゃったこと。ユーリス坊ちゃまの部屋から領主の判の押された死刑執行予定リストが発見されたこと。おそらく、誰にも秘密で仮面をかぶり、死刑執行人の仕事をしていただろうこと。それらすべてのロバン家の汚点を、口止め料を払って闇に葬ったこと」
 老婦が胸で聖印を切った。
「司祭様の裁量で、あの事件の罪人がサイド坊ちゃまであることが世間に知らされました。しかしそれ以外は伏せられたのです。本当のことを伝えられたのは、私のような長く勤める使用人ほんの数人と裁判に関わった官吏だけだったそうです。きっと司祭様もご自分の胸だけにしまっておくのはお辛かったのでしょう」
 そして彼女はソテールの手を借りて、再び立ち上がる。
「でもねぇ、私たちはユーリス坊ちゃまはどこかで生きていると思うのです」
 艱難辛苦、人生の刻まれた笑顔がユニヴェールに向けられた。
「葬儀屋の話ではね、棺がとても軽かったんですって」



「ローマに出没していた死刑執行人はユーリス・ロバンか?」
 ロバン城を辞し馬の常歩(なみあし)に揺られながら、ユニヴェールは傍らに訊いた。
「その線は強いな」
「生きているとしたら貴様と同類、死んでいるとしたら我々と同類。もっとも……貴様と同類だとすると霧散するのは合点がいかないがね」
「不正を行った父と不正によって刑を免れた兄を自らの手で死刑にするのがユーリス・ロバンの正義だった……」
「サイド・ロバンが死刑になっていないのなら、奴が裁判官吏に復讐するためという理由は弱い。逆に不正を許さないユーリス・ロバンならば、カーリタス卿を狙う強い理由ができる」
 口に出して整理してやってから、付け加える。
「つまり、まぁ何にせよカーリタス卿は未だに危険だという結論になるよな」
「…………」
 返事がないままソテールの白馬が駈歩(かけあし)になる。
 自分の馬に合図を送って馬体を併せると、男が眉を寄せて口を結んでいるのが見えた。
 どうせ、小難しく正義について考え込んでいるのだろう。
「私はカーリタスの城がどこにあるか知らないから、貴様がしっかり道案内しろよ」
 半馬身下げ、まだ耕されていない田畑が連なる様を両脇に眺め、傾く陽に身を焼く。
 間もなくすれば、ひび割れた大地からしぶとく育った雑草どもも、粗末な茅葺の農作業小屋も、世界の端から端まで橙に染まる黄昏がやってくる。
 魔が言うのも何だが、嫌な予感がした。
 ──何故事件から30年も経った今更、ユーリス・ロバンが正義を掲げて出てくるのだ?



◆  ◇  ◆



「兄を粛清し父を粛清しようとしたユーリス・ロバンは、兄と同じ地下牢に幽閉されて死んだ」
 腰に剣を携えた仮面の死刑執行人は、あくまでも客観視点で話す気らしかった。
 パルティータは十字架の救世主に負けない起伏のない眼差しを男に送った。
「本当に?」
 開け放った扉の先から、まだ雨の音はしない。
 傘は持ってきていないから、降ってくる前に帰りたい。
「ユーリス・ロバンは本当に死んだのですか?」
 長い間があった。蝋燭が白い涙を幾筋か流し、仮面の中で男の口が開かれる。
「──いや。彼は生きていたんだよ、それが」



◆  ◇  ◆



 翌日、パーテルにほど近いカーリタス卿の城に二人が着いた時、空は厚い雲に覆われていた。空気は湿り気を帯びていて、土の匂いが濃い。
「わざわざご足労いただいて」
 馬丁に馬を預け門衛に話を通すと、真っ黒い衣装に身を包んだ奥方がやってきた。
「いえ、そんな──」
 しかしその背後から駆けて来る娘たち二人も黒いドレスであることを認め、ソテールが続ける言葉を失くした。
「夫は昨日亡くなりましたの」
 隊長殿の引きつった顔に、奥方の方から話を切り出してくる。
「それはどういう……」
「こちらに帰ってきてからすぐ、階段から足を滑らせて頭を強く打ったようで……」
 風は、南から吹いていた。
 奥方のほつれた髪をさらい、吸血鬼始末人の白い外套をはためかせ、吸血鬼の黒衣を翻す。
「疲れていたのかもしれませんわね」
 そろそろと寄ってきた姉妹が、無言でユニヴェールの腕を掴んできた。
 ふたりはぎゅっと力強く抱きしめたまま、目は黒土の地面を凝視している。
申し訳ありません(ジュ スィ デゾレ)、マドモワゼル」
 吸血鬼は膝を付き、姉と妹の額に口付けた。
「お父様はとてもお優しかったのです」
 長い睫毛に縁取られた妹の大きな目が、紅を見上げる。
「そうでしょうとも」
「色々なところへ連れて行ってくださいました」
 姉の目は、奥方のそれに似ていた。泣いてはいけないと自分に言い聞かせている時の女の目だ。
「卿は、貴女方と暮らすことができてさぞかしお幸せだったことでしょう」
 肩口に顔をうずめてくる栗色の巻き毛を()きながら白い聖人を見やれば、その蒼い眼差しは、濃灰色の空にそびえる城へと向けられていた。
 まるで敗者の顔だ。
 我々は何に敗れたのだ?
 神か? 運命か?
「奥様、ちょっとよろしいでしょうか」
 城から走り出てきた若いメイドが困り顔でお辞儀をしてくる。
「侍従長がどこへ行ったかご存知ありませんか? 旦那様のお品が必要なのですが、どこへしまってあるのか私たちでは分からず……」
「クロワが? さぁ……私は何も聞いていませんよ」
 ──クロワ。
「侍従長のお名前をご存知ですか?」
 ユニヴェールが姉のベルに尋ねると、妹も一緒に頭を左右に振ってきた。
「見たこともないの」
「…………」
 ユニヴェールはもう一度姉妹に口付けを与えると、影のように立ち上がった。彼女たちの腕を振り払うことなく、引き剥がすことなく。
「奥様、侍従長はセバスチャン・クロワという男ですか?」
「え? えぇ」
「盲目の」
「お知り合いですか?」
 問いかけは肯定。
 ユニヴェールは一歩踏み出した。
「奥様、この城の礼拝堂はどちらにありますか?」



 その淡い琥珀色の空間に踏み入った瞬間、敗北は明らかになった。
 誰に負けたのかも。
「やはり……」
 礼拝堂は、城の奥、一家の寝室を更に上階へ行った場所にあった。
 中央の身廊はゆったりと広く、左右にはアーチを描いた太い列柱が立ち並び、アーチ上部の壁面には聖人たちのモザイクが絵巻のように連なり、採光の高窓(クリアストーリ)からは白く弱い光。
 石の材質せいなのか、光は黄色がかって祈りの場を包んでいた。
 威圧もせず、支配もせず。
 華やかでなく、煌びやかでなく、しかし気高く。
 古代ローマの匂いが漂うバシリカ式の礼拝堂は、いかにも家族が集い神に祈りを捧げる場に相応しかった。
 母は庭で育てた花を祭壇に飾り、父は娘に聖人たちの物語を聞かせる。
 肌に感じる空気は(しず)かで、けれど決して無言ではない。
「クリスチャン・ローゼンクロイツ……」
 ユニヴェールの後ろで、ソテールが古い名をつぶやいていた。
「今はセバスチャン・クロワと言うらしい」
 身廊の最奥、数段高い位置に据えられた祭壇にそれは自らの証を残していた。
 家族の和やかな(たわむ)れには、毒々しい。
 城が重ねた波風のない歴史には、唐突な。
「カーリタス卿を処刑したのはユーリスではなかった」
 彼らが目にしたのは、祭壇の十字架に絡む、瑞々(みずみず)しい青葉と艶やかな紅の薔薇。
 他を圧倒し咲き誇る生命の力に満ち溢れ、自らの存在を声高に(うた)い輝きを放つ、天使の薔薇。
「ではユーリスはどこへ行った?」
 奥方や娘たちが口を開けて未知の芸術に見入っている前で、ユニヴェールは乾いた靴音を立てて祭壇の下まで歩いて行き、空を切って手を広げた。
「ローマに現れていた殺人鬼もサマエルか? いいや違う。奴は剣を振るう必要などない。カーリタス卿のように、運命が奴の味方をする。ローマにいたのがユーリスなら、何故奴はカーリタス卿を直接裁かなかった? サマエルとユーリスが繋がっていたらどうだ?」
 吸血鬼は並べられた長椅子の間を忙しなく歩く。
 白い手袋に包まれた手をあごにやりながら、思い付きを羅列する。
「カーリタス卿を殺す動機のあるユーリスがローマで法からの不正逃亡者を次々処刑した。サマエルの助けがあれば生者であろうと死者であろうと霧散することくらい簡単だろうしな。そしてサイド・ロバンの事件の全容を知っているカーリタス卿ならば、現場に正義のカードの意味が分かる。彼はどうやっても何らかの聖なる護衛を願うだろう。そして護衛の目はカーリタス卿に集まる」
「だが彼を殺したのはユーリスではなかった」
 身廊の真ん中に陣取り腕組みをし、ソテールが口を挟んできた。
 ユニヴェールは身を翻してそれに対峙する。
「サマエルは運命で人を殺す。護衛もなんて関係ない。だが、ユーリスは自らの手で始末をつけねばならないらしい。ということは」
「皆の目がカーリタス卿に向いている間、ユーリスは別の処刑をしに行ったのか? カーリタス卿は、その処刑が邪魔されないための(おとり)
 ソテールが言って一泊間を置き、続ける。
「でも、誰だ?」
 隊長殿の自問はひどく当たり前の疑問だった。
 サマエルではなくユーリスが処刑するべき人間とは、誰だ?
 またも彼らに背を向け思案しようとした瞬間、フェッラーラの夜が甦った。

 ──ヴァチカンにいた頃の私の執事も、そういう名前でそういう紋章を首から下げていました

「分かった。処刑するべき人間を交換したんだ」
 ユニヴェールは動きを止めうめいた。
「は?」
 パルティータ・インフィーネの言葉を頭から信じるならば、あの女はサマエルに会いながら未だに生きていることになる。
 つまり、サマエルが何らかの理由で彼女に“死の運命を与えることができない”──殺すことができない、という仮定が成り立つ。……何故彼女を狙うのかはともかくとして。
 まさか、インノケンティウスの血筋が奴のもたらす運命まで阻んでいるわけではないだろう。あの男だって結局死んだのだから。
「サマエルが殺せない人間をユーリスが殺す。その代わり、ユーリスが処刑したい人間をサマエルが殺す。それがローマで起きたこの一連の事件の目的だ」
 ユニヴェールは指を立てて高く掲げながら、身廊を勢いよく戻り白の横を過ぎた。
「だからそれはどういう──」
 声を上げてくる隊長殿を無視し、
「馬は頼んだ」
 言い捨てる。
 礼拝堂を出て石の階段を滑るように降りる。
 ソテールは追ってこなかった。
 本来、闇を渡る吸血鬼に馬は必要ない。
 あの男はよく知っている。



 ◆  ◇  ◆



「昨日、ひとりの男が死んだ」
 仮面の死刑執行人は、もったいぶったくせにすぐ話題を変えてきた。
「罪人やその親族から罪の軽減の代わりに金を巻き上げて私腹を肥やし、老いてから授かったふたりの娘たちに少しでも多くの財産を継がせてやるため、あることないこと審問官に密告し、近隣の小領主を陥れ、火炙りにかけていた男だ」
「サイド・ロバンの裁判を担当した官吏ですね?」
 男は否定も肯定もしてこなかった。
 それが答えだった。
「彼は、小心者で臆病で保身のためなら何でもするような男でね」
 教会の中は暗い。
 細かい色ガラスが規則正しく散りばめられた美しい薔薇窓は、誰に思い出されることもなく力を失い、長年閉じ込められていた闇が教会全体に染み付いてしまったかのようだ。
「一方で彼は、娘たちを溺愛する父親でもあった」
 それは裁判官の声に似ていた。
「きっと彼は、自分が追い落とした者たちの復讐を受けて娘たちが魔女だと密告されたとしても、莫大な金をかけて城と地位と名誉をも捨てて救っただろう」
 異端審問官が集めてきた魔女たちに、死刑の判を押す裁判官の声に。
「彼の罪と彼の愛、どちらが重いと思う?」
 死刑執行人は、天秤に分銅をのせる真似をしてきた。
 しかしこちらの答えを求めているわけではなかったようで、すぐに言葉が続く。
「サイド・ロバンは気の弱い男だった」
 仮面がわずか上を向いた。
「彼は、家の存続のために愛想笑いを振りまき、権力者のご機嫌を取り、金を配り、命として下される無理難題に奔走し、時に恫喝し、時に裏切り、時に知らぬ存ぜぬを通す。後継者が課されるそのいちいちに疲れ果てていた」
 淀みない台詞は、この男が何度となく胸の中でサイド・ロバンについて考えた結果を思わせた。
「向いてなかったんだ。そういうことってあるだろう?」
「えぇ」
「でもそんな理由に価値はない。どれだけサイドが可哀相な奴であろうと、事実は変わらないんだからね。……それなのに法は彼を許した。金が、彼の罪を償ったんだ」
 置かれたひと呼吸は長かった。
「神は彼を赦しただろうか。官吏と領主に積まれた金で、いや──例えヴァチカンの司教座に積まれたとしても──その赦免は正義ではなくてただの堕落だ。決して神の意思ではない」
 我々はそう信じている、死刑執行人はそう付け加えた。
 ……“我々”。
「詐欺まがいの商いで貧民から最後の麦一粒まで奪い取った商人は、告発されればそうやって積み上げた富を差し出す。官吏や司祭はその富をもって罪を取り消してやり、己は我が家を飾り立て享楽に(ふけ)る。知っているかい? 今や神の代理人と国王の代理人が民に絶望を与えているんだ」
 そして言い捨てる。
「腐ってるよ。名誉が先走り、華美が流行り、財が崇められ、飽食が日常で、背信に胸も痛まない。怨みは募り、失望は広がり、不信に満ち、諦めが蔓延し、冷笑が蝕み、虚無が広がり、苛立ちはさらに弱い者へと向けられ、やがて疲弊は限界を迎えるだろう。……しかし」
 男が腰に下げた剣の柄に手を置いた。
「我々は裏切られた者たちの味方だ」
 のっぺりとした白い仮面の目の周囲は黒く塗り潰されていて、男の視線は見えない。
 だがそれは祭壇の対角線上にある薔薇窓へと向けられているに違いなかった。
 そしてその先の、天に焦がれている。
「法は役に立たない。神の名は(かた)られている。悪は薄汚い仮面をつけて野放しにされている。必死に生きている者が報われない。──今こそ! 正義は粛々と成され、苦難は救われ、この閉塞した世界は神の望まれる世界へと変わらねばならない」
 男が、大袈裟に手を広げた。
「悪を粛清し、堕落を正し、弱きを愛し、病を払い、魂を磨き、世界を変える」
 闇を裂く緋色が踊る。
「それが我ら、クリスチャン・ローゼンクロイツに率いられし薔薇十字団」
 死刑執行人の高らかな宣言は、異端審問官たちの言葉を思い起こさせた。
 地上にはびこる魔女を根絶やしにしようと、罪のない人々を次々火刑に処してゆく、あの集団も同じような正義を掲げてはいなかったか。
「ローゼンクロイツの錬金術は僕らに永遠の命を与えたんだ。私欲のための命じゃなくて、人々を救うための命だけどさ」
 つまり、ソテール・ヴェルトールを始めとするデュランダルと同じ人種ということだ。
「誰もが先を争って己の利を追求しているようじゃ、世界に平穏は訪れない。誰かがそれは間違っていると身を持って教え導かなければいけないんだ。剣を掲げてでも」
 死刑執行人が仮面に手をかけた。
「今の世界には、想像力と優しさと余裕が足りないんだと思うね」
 外された仮面の奥から、若い男の顔が現れる。
 澄んだ愛嬌が映る緑玉の双眸、血色の悪い薄い唇。賢君、英雄といった風格はないが、その代わり人当たりは良さそうで、社交界では影の花形となるタイプだ。
「パルティータ・ディ・セーニ」
 男が仮面を胸に当て、口調を改めてきた。
 その目と同様、澄んだ明るい声。
「貴女にローゼンクロイツからの伝言です」
「……はい?」
「“時は来た。迎えに行く”」
 たった二言。
 言葉そのものの意味はさすがに分かるが、文脈はさっぱり分からない。
「ご両親が婚礼の時にローゼンクロイツと交わした契約なんだってね」
「一体何を契約したんだか」
「だからこそ僕らは今まで動けなかった。僕の個人的な断罪でさえも、待てを喰らった」
「そんなこと言われても」
「忠告だ。如何に破格の吸血鬼と言ってもローゼンクロイツの前には意味もない。ソロモン王の悪魔も(たお)れたんだから」
 事情が飲み込めないと言っているのに、勝手に話を進める死刑執行人。
「だいたい、あの吸血鬼は何をしてるんだい? 僕が貴女を殺しに来ていたら、どうするつもりだったんだろうね?」
「クロワは貴方にそう言わせるのが目的だったんでしょう? “ほら、シャルロ・ド・ユニヴェールの影に隠れていたって無駄だろう”って。性格悪いから自分で言わないのよ」
 サマエル、クリスチャン・ローゼンクロイツ、セバスチャン・クロワ。
 皆が皆、呼びたいように呼ぶ死の天使。
「あの方は貴女がまたも魔物と関わっていることに大変お怒りなんだよ。人間と魔物は関わってはいけない。それが神の御心なのに」
「そういう理由をつけて魔物や人間を片っ端から殺していくのよね」
「神の意思に背けば裁きが下る。それは当たり前の話だろう?」
「ユーリス・ロバン」
 男にそれ以上台詞を与えるつもりはなかった。
「私もご忠告差し上げましょう。あなた方の正義もサマエルの呪いも、あの吸血鬼の前には意味がない。あの方にケンカを売るつもりなら、そちらこそ充分お気をつけあそばせ」
 パルティータは扉の横に立ち、手を外へと向けた。
 どうぞ、お帰りください。
 雲が切れたのだろうか、外がやや白み、頭上の薔薇窓から光が入り、祭壇を一直線に照らし出す。
 しばし黙ってこちらを見つめてきたユーリス・ロバンは一度深く目を閉ざすと、再び仮面をつけた。
 そして大きな足音で時を刻み、緋色のマントを揺らし、光の中へと出て行った。



◆  ◇  ◆



「ここはどこだ?」
 ユニヴェールはいきなり飛び込んできた光に一瞬目を押さえ、手近にあった壁に手を付こうとし──
「痛っ」
 もはや痛覚などないのに、咄嗟のこととなるとつい口走ってしまう。
 痛みの錯覚のあった右手を見やれば、白い手袋の指先に血が滲んでいた。
「棘か」
 しかし落ち着いて観察すれば、すべては他愛ないことだった。
 彼が立っていたのはパーテルの入り口、赤レンガが可愛らしいアーチ描く門の脇。低い街壁の始点であり終点だ。その一面に赤い小ぶりの花をつけた蔓薔薇が這っている。
 誰かのお誕生日会のように、無邪気で可憐な出迎え。
 ……どう考えても薔薇には早い季節であったけれど。
「おかしいな、自分の家に出ようと思ったんだが」
 振り返り街の外の風景を眺めれば、カーリタス邸で見た重々しい雲が割れて、切れ間から一条の光が地上に差している。
 なだらかに下る道が続き、まだら模様の畑が並び、農家が小さな集落を作り、黄色の花の群生があちこちに見え、新緑の丘には白い羊が点々としている。
 いつの間にか、南からの風も止んでいた。
 ──その時、
「?」
 パーテルの奥から馬車の音が聞こえてきた。
 葦毛(あしげ)の馬に引かれ、軽快なテンポでこちらに向かってくる二輪馬車。
 吸血鬼は門の影に入るようにゆっくりと退き、砂埃を上げて過ぎる馬車へ無意識に目をやった。

 それが、彼が300年間存在し続けて初めての邂逅(かいこう)となった。

 馬車の奥に腰掛けていたのは、仮面で顔を隠し緋色のマントを羽織った死刑執行人。
 そして手前にいたのは、純白のスカーフを結び皺ひとつない上着をまとい、いかにも侍従長──それも城主を意のままに操る──といった風情を漂わせる痩身の男。
 すれ違う瞬間、男はこちらを向いた。
 白い包帯に視線を遮られた両眼、薄く笑った口。
 それが優越の笑みであることは間違いなかった。
「…………」
 長閑な田園の中へと小さくなってゆく馬車をちらりと見送り、再び影に溶け消えた吸血鬼。
 時を置かず、世界を覆っていた雲が散り散りになり、陽光が大気いっぱいに拡散した。
 戻った南風に薔薇の葉が音を立てて揺れる。
 通りかかった住民が声をあげて赤と緑に彩られた街壁を指差した。
 蝋燭売り、野菜売り、薪売り、修繕屋、そろそろ仕事を切り上げようとしていた行商人やら、学校を終えた学生やら、子どもを連れた母親やら、皆が集まり口々に感嘆を漏らす。
 人の列は幾重にもなり、ざわめきは波の如く寄せては返し寄せては返した。
 街が、黄昏に呑まれるまで。



◆  ◇  ◆



 後日、暗黒都市の長〜〜い会議から帰ってきたユニヴェールは、書斎でソテール・ヴェルトールからの手紙を読んでいた。
 腑に落ちないまま仕方なくカーリタス邸からヴァチカンへ戻ったらしいあの男によると、カーリタス夫人も心労がたたって急逝したとのことだった。
 サマエルの姿を見ていたのでは、無理もない。
 手紙には、カーリタス卿の令嬢ふたりは現在ヴァチカンに滞在していて、ソテール自身が引き取り手を探していると(つづ)られていた。
 読む端からペンを滑らせている返信には、自分がパトロンになるから貴様が身元保証人になれと書く。
 自分は姉妹からの依頼を果たせず、ソテールはカーリタス卿自身からの依頼を果たせなかったわけで、かつてヨーロッパ全土に名を知らしめていたクルースニクの隊長、副隊長がそろってサマエルとユーリス・ロバンにはめられ、護るべき相手を死なせるという敗北を喫したのだ。
 カーリタス一家がローマを去った時点で契約は切れたのかもしれないが、後味は悪い。
 そこまで書いてペンを置き、彼は頬杖を付いて部屋を照らすランタンの火を見据えた。
 あの後、ユニヴェールがここへ戻ってきてみると、心配したメイドはいつものとおり庭掃除をしていた。落ち葉も何もない庭を掃くことに何か意味があるのかどうかは別として。
 だがこのパーテルにサマエルとユーリス・ロバンが来ていたのは事実だ。
 サマエルにケンカを売られたことも。
「……ベリオールやソテールに自慢したら歯軋りして羨ましがるぞ、あいつら」
 そうだそうしよう、と、彼はソテールへの手紙に向き直った。
 ニヤニヤ笑いながらペンを取る。
「ユニヴェール卿〜、夕食ですって〜」
 もう明け方なのか、ルナールが階下から呼ぶ声が聞こえた。
 仕方なく手紙は後にして食堂へ降りていけば──
「ルナール。これはどういうことだと思うかね」
 扉を開けて入ったそこは、王宮の食卓かと見間違うばかりの豪勢な料理で溢れていた。
 橙色のソースがかかったでかい海老が皿からはみ出し、ローストチキンと香ばしい匂いの肉詰めパイが真ん中を陣取り、スープの中には魚介が息継ぎもままならないほど泳ぎ、焼きたてのパンがカゴ一杯に置かれ、ハチミツ漬の果物が所狭しと顔を出しているロールケーキがデーザート席に鎮座している。
 おまけはナイフとフォークを両手に持って準備万端お子様席に座っているシャムシール。
「さぁ……」
 ルナールは単純に首を傾げてきた。
「何かお願いされているんじゃないですか?」
「…………」



◆  ◇  ◆


 さぁ、薔薇が咲く。
 正義と慈愛が世界を変える。
 腐敗と堕落を剣で裁き、悲嘆と苦渋を科学で救い、呪われた死を運で滅ぼす。
 それが我らの決意。それが我らの使命。



THE END



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ユーリス:iurisdicatio(羅)→正義 カーリタス、ゲネリス:caritas generis humani(羅)→博愛・慈悲
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 eRa [Hymne] [Enae Volare Mezzo] [Misere Mani] [Cathar Rhythm]
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