THE KEY 2 THE WORLD

 序



 かつて、世界には未完の伝説があった。
 いつから語られているのかも分からない、中途半端な伝説が。

 <『始まりの鍵』、『終焉の棺』──それは“何を望む”、“何を知る”、“何を紡ぐ”、“何を──”この欠けた四文が刻まれた鍵。気まぐれに現れては人々の手を渡り歩く鍵。そしてその鍵が開けるものこそが、誰ひとり目にしたことのない『終焉の棺』。始まりの鍵を手にして終焉の棺を開けた者はね……>

 結局どうなるのかは、誰も知らなかった。だから未完なのだ。
 ある者は富が得られるのだと言い、ある者は力を得られるのだと言った。またある者は、揺るがぬ地位を得られるのだと目の色を変えた。
 
 その憶測や期待はやがて鍵を持つ者への恐怖となり、多くの命が失われた。
 正体が分からないだけに、過剰な惨事を呼び込んだ。

 宮廷魔導師ブラッド=カリナンが騎士セーリャ=クルーズに殺害され、その騎士もまた自害した事件然り。
 レーテル魔導学校の初代会長が副会長である召喚士を暗殺した事件然り。

 過去に封印された事件、公にならざるをえなかった事件、歪曲して伝えられた事件……。
 いつしか史書は、それらの事件ひとつひとつを繋ぎ合せだけのものに成り果てた。
 そう。紡がれたすべての歴史は、“鍵”のもたらす恐怖ゆえの歴史であったのだ。
 誰かが、誰にも凌駕できない富を、力を、地位を、得るかもしれない。
 その恐怖は、人ひとり──いや、目につく者すべて──葬ることができるほどの力となっていた。

 こうして歴史は、鍵によって刻まれていった。


 ……しかし、今ここに鍵はない。
 鍵があったという記憶さえ、世界には残っていない。
 鍵の引き起こした歴史も、なかったことになっている。

 彼女が、鍵の歴史に幕を引いたからだ。 
 もはや誰の記憶の中にもいない、彼女が。

 世界はそれを良しとして、何事もなかったかのように動き続けている。今も。
 人々は何の疑問も持たず日々を送っている。今も。
 
 だが我々の中に問いは残る。
 鍵は、誰が何のために創ったのか──?


 彼女が消えて二年。
 その答えは(ことわり)に姿を変え、彼らを縛りのしかかる。
 理に四肢を繋がれた彼らは、空を仰いで牙を()く。

 さぁ、再び幕が上がる。
 この鎖を断ち切る時が来た。



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