その日はこの上なく快晴であった。
雲ひとつなく天は高く。
風薫り、鳥歌い、木々はざわめき。
復興を始めた王都も人波でにぎわい、その城はいつに増して壮麗に映えていた。
今日の午後には国賊がひとり処刑されるのだと御触れがあった。
こんな美しい日を血で汚すなどとはもったいない。
しかし、この国が因縁を断ち切って新しく門出するにはふさわしい日でもある。
人々は皆あーだこーだと語り合い、罵りあい、笑いあった。
彼らは何もしらない。
だが、彼らには知る必要もない。
国があり、今日があり、自分があり、平穏があり、……それでいい。
誰が処刑されようと、言ってしまえば誰が王であろうと──結局関係ない。
この陽光が平等に降り注いでいさえすれば、いい。
──が。
突如として雷鳴が大地を揺るがした。
雲ひとつない空間が、強烈に振動した。
「何だ!?」
「雷じゃない!?」
「こんな天気なのにか?」
「どこか攻めてきたんじゃないでしょうね!」
「そんなまさか!」
戸惑う国民を横目。
瞬く間に、そよ風は荒れ狂う強風と変わり、蒼空は混沌たる暗雲が渦を巻く。
輝ける陽光はまたもその姿を遮られ、国は暗闇に引きずり落とされる。
人々は口々に神の名を叫んで逃げ惑う。
あの時と同じだった。 数日前、あの悪魔が現われた時と同じだった。
街を壊滅状態にまで陥れ、しかし王子の力によって払われたあの悪魔。
──アンドレアルフース
人々がもっと注意深かったのなら。
人々がもっと冷静になれるものだったのなら。
彼らは見ただろう。
彼らの崇拝する王城の始まりを示す堅固な城門。
獅子や蛇が描かれた大きな石造りの城門。
万魔殿の如くそびえる城を背景にして、その上に佇むふたつの影を。
慇懃に控える黒執事。
そして──
「閣下、少し派手な登場では?」
大きく広げた黒い闇を惜しげもなく見せびらかし、世をも溶かす微笑を浮かべ、その者の主は柔らかな低い声音で応えた。
「構わぬ。ヴィネ王とは話がついた。このくらいの方が分かりやすかろう」
「──御意」
いつもと同じ返事を聞き流して、男はその紅眼を楽しげに細める。
そして純白に包まれた片手をあごに寄せ、つぶやいた。
「迎えにきてやったぞ、クローネ=カイゼリン」
THE
END
あとがき
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